「…今にも出そうではあるけど」


「えっ、だよねっ!?だって夢みたいだから…!」


「…うん。俺も覚めて欲しくない」



やっぱり覚めちゃうの…?
これは夢なの…?

いいやっ、夢なんかにはさせたくないっ!



「千隼くん、もしかしてさっき…北條くんにヤキモチとか、妬いた…?」


「………」



あっ、黙っちゃった…。

でも、クラスイチかわいい葛西さんより私のほうがいいって言ってくれたの。

あれ本当はありえないくらい嬉しかったんだよ。



「李衣は…かわいいと思う」


「えっ、そっ、それは千隼くんのほうが格好いいと思う…!」



名前をこんなに呼ばれること。
私も名前で呼べるようになったこと。

嬉しいことがありすぎて、こんなに幸せでいいのかなって怖くなる。



「俺、李衣のこれ好き」



と、私の髪にいつも付いているヘアピンに触れた千隼くん。

とくに思い入れがあるわけではないけれど、入学当初から身につけていたものだった。



「こ、子供っぽくない…?」


「そこも李衣ってかんじ」



くすっと笑ってくれた。

そんな顔に見惚れていると、今度は拗ねたような表情に変わって。

こんなにもコロコロ変わる人でもあったんだ…って、またここでも嬉しくなる。