うるさい。うるさい。うるさい。

 何もかも、あいつが......母親が、いなけりゃよかったんだ。

 そうしたら............。

 唇をかみしめる。



「おーいっ、大空ー! 翼皐ー!」



 晴れやかな、明るい声がした。

 その声は、この気まずい、あきらめきった気持ちを、この空気を一瞬で飲み込んでしまう。

 ぱっと、俺とさーの顔が声を発した人の顔をとらえて、明るくなる。



(のぞむ)ぅー!」

「おめーら、遅いってばー!」



 荒井(あらい) 望。

 俺ら二人の親友。

 望が俺らに言い返した。

 俺らも、望に言い返す。



「ちょっと、居残りがあったんだよー!」

「居残りなんてあんのかよー! お前ら、宿題やってねえのかー!」

「「やってねえにきまってるやんけ‼」」

「それ声をそろえて言うとこかぁー⁉」



 別に普通の会話で、特に珍しくもない、よくあるような会話なのに。

 それがなぜか面白くてうれしくて、笑ってしまう。

 笑うのがダメなわけじゃねえけど。

 父さんが殺されたあの時から、笑うことは少なくなっていた。

 ..................いや、笑えなかった。

 まったく、望にはかなわねえな。

 それはこれまでも、これからも、きっと。

 ふっ、と笑っていると望が大きな声を上げた。