また、ある日のある夜のこと。

 俺らは、家が一番嫌いだった。

 厳密にいうと、母親が大嫌いだ。

 大嫌い。で、終わらせられないくらいに、めちゃくちゃ憎い。

 ていうか、死んでほしい。

 でも、お金なんてないし、小学は事務教育だから、この母親の元で暮らすしかなかった。

 本当は、母親なんて呼びたくはない。

 殺人者、殺人鬼、って叫んで苦しめて苦しめて地獄に落としてやりたい。絶望してほしい。

 母親は、父さんを殺した。

 父さんは、俺らにこれでもかっていうくらい優しくて面白くて、............大好きだった。

 母親も、そうだったけど..............................今は、こっちがあっちを憎んでいるくらいだ。

 さーと、二人無言のまま家までの道を歩いていると。

 さーがぽつりと、忌々(いまいま)しそうにつぶやいた。



「あいつなんて、いなきゃよかったのに。母親なんて、いなかったら......」



 その声は、俺のところまで届いた。

 すごく小さな声だった。

 でも無言だったら、響いてしまう。

 そのつぶやきは風に乗って、沈黙を、どこにもやりようのない気持ちを抑えていたフタを、破った。