「............きょ、きょうはもうこの時間自習ねッ!!!」



 そう告げて、教室を飛び出していった教師。

 奇打は俺を見て、小さく笑った。

 陽詩に向けてた............

 ——あの、花が咲くようなきれいで美しい、これを見たらだれもが心を奪われそうな笑みを。

 そいつの笑みを見た瞬間、俺の胸は高鳴り始めた。

 ............なんなんだ、これ。

 あいつが俺を見るだけで、変な動機(どうき)がする。

 

「ここらあぁ~~~、何してるのぉ~」



 涙混じれにそう言う陽詩。

 そのまま陽詩は心空に抱き着いた。

 なんか、もやもやする............。

 いつもなら、ああそうですかうざーって感じに思うのに......。

 なんかむかつくし、イラつく。



「陽詩、何してんだよ」



 俺は陽詩にそう声をかけた。

 陽詩が俺を見て、「うわあああん」と泣きそうになる。



「心空~、なんでこんなこと言うやつの味方したの~」

「ん~、秘密っ」

「ええ~? まあ、心空は優しいから~」



 そんな会話をした後、奇打はすぐにクラスメイトに囲まれた。



「感謝!」

「えっ?」

「ほんとありがと——‼」

「ええっ?」

「数学の時間苦手だったんだよー!」

「えええっ?」

「奇打さん、ほんっとーにありがとー!」

「悪口言っちゃってごめんねー‼」

「許して!」

「裏転校なんだって言っちゃってごめんよー!」

「ううう裏転校っ? 何、それっ......。えええええええっ?」



 クラスメイトに囲まれた奇打。

 そのクラスメイトの中には、さっき奇打を馬鹿にしてたやつもいて、つい舌打ちをしたくなった。

 ............チッ。

 手のひらそんなんで返すなよ。

 ていうか、奇打を馬鹿にしてたやつが奇打に笑いかけていることに、なんで俺はこんなにもイラついているんだ?

 そんな疑問を抱えたまま、俺はこの後の授業中もチラリ、と奇打を盗み見た。

 奇打がいることに、俺に笑ってくれてることに、

 ——変な動悸を感じながら。