教室内に沈黙が訪れる。

 唖然(あぜん)と奇打を見るクラスメイト。

 目を溢れんばかりに見張る教師。

 俺も、あぜんと後ろに立っている奇打を見つめた。

 ............何なの、こいつは。

 こんなところで、俺を助けてくれるなんて.....助太刀(すけだち)する、人間なんて............いるわけが..................。
 


「え? 式書いたほうがいいですか?」



 二コリ、とほほ笑んでそういう奇打。

 その顔が............教師に圧制(あっせい)()いているようだった。

 

「間違ってますかね?」



 ふっ、と教師を下に見るように笑ったそいつ。

 こいつ、こんな顔もすんの............?

 陽詩といるときは、こんな顔をしないでふわりと優しく笑っていた。

 だから、こんなふうに笑うことはないって思ってたのに......。

 教師がゆるゆると、奇打のこたえた問題の解答が書かれた紙を見やる。



「どうですかっ?」



 今度はふわり、と花が咲くように笑った奇打。

 教師が、怒りでか......焦りからか、顔を赤くした直後。

 もう一度解答を見た教師が、目を見開いた。



「......っ、正解...よ............」

「そうですか、よかったです」



 悔しそうに言った教師に奇打がほほ笑む。

 その顔は、陽詩に見せていた優しい微笑みが浮かんでいる。

 ............けど、なんだかその顔は、............

 教師が顔を真っ赤にして歯噛みをした。

 きれいな花には(とげ)がある。

 きれいなものには(どく)がある。

 ――そんなことわざを連想(れんそう)させるような笑みだった。



「......あっ」



 何かを思い出したように、そんな声を()らした奇打。



「もう、みんなに意地悪しないでくださいね? 悲夢くんはしゃべってなんかいませんでしたよ」



 えっ............。

 はっ......?

 なんでこいつ、俺の肩持ってんの............。

 そんなことしたら、この教師に嫌われて............面倒なことになって、雑用を押し付けられるに決まってんだろ。

 奇打は相変わらずクソ教師に微笑んで。



「“おおぞら”じゃなくてツバサくん、ですよ」



 また、そう付け加えた。