「女王即位から三年、いよいよきな臭くなって来たな」
民の不満は高まる一方。それに一切配慮されることなく上がり続ける税金。
「ルーの話だと女王が執務を行ったことはないそうです。それは男の仕事であり、女の仕事ではないと。ご自分を貴族令嬢か貴族夫人と勘違いされているようですね」
代わりに執務を行っているのはヤンエイ公爵。貪欲で野心家な男に実権を握らせているのは自滅行為だ。けれど忠告をしようにも忠告した人間は全員、追放になった。
王宮にはもうまともな人間は残っていない。
「それと、クレタで革命が起きましたよね」
「ああ、去年の暮れだったかな。王国貴族が国庫を私物化し、国には餓死者が転がった。不満は暴動へと変わり、ついには人民が武器を取り王家を滅ぼしたそうだな」
内乱直後のためクレタはまだ落ち着いてはいないが、王家の世襲性を廃止し、民たちの中から選挙で次期王を選ぶ民主制に移行し始めている聞いたな。
「俺の方で調べてみたんですが、それに感化されている奴らがいるみたいです」
国民の不満は高まりつつあるが、まだ暴動を起こすほどではない。それに身分制である以上、彼らの中に王侯貴族に対して畏れを抱くものだ。だからこそ、あれほど国が荒れたクレタでもすぐに暴動へはいたらなかった。
「追放された貴族連中か」
「はい。このままではクレタの二の舞。追放された怒りや不満もあるでしょう。民たちを煽り、更には他国にも情報を流しているようです」
女王に好き勝手されるぐらいなら他国に王権を引き渡し、属国という形でも国として残す腹づもりか。私怨が入っているとはいえ、彼らも国を思って動いているのだろう。ただ、その国がパイデス国民をどう扱うかは現段階で不透明だが。
「他国に縋るしかないとは何とも情けない話ね」
戦争が終わり、漸く訪れた平穏を今度は守ろうとした者同士の殺し合いで失おうとしている。何とも皮肉な話だ。
「さらに悪い報せです」
「いい報せだったことなんて女王即位からほとんどないでしょう」
これ以上何があるのだろう。
「ヤンエイ公爵が大量の武器を売り捌いています」
公爵は武器の密輸や売買をして財を成した一族。エルダとの戦争では飛ぶように売れたでしょうね。エルダにもこっそり武器を売っていたという噂があった。証拠がなかったために前王陛下も罪を償わせることができなかったし、彼は多くの武器を扱う。そのため関係は良好なままでいたかったというのもあるだろう。
「エルダとの戦争準備を始めているとか」
「女王はこのことを」
「知る由もありません。ですが、ここ最近エルダが魔鉱石を独り占めしていることを陛下は王宮内で嘆いているそうです。物価の上昇や税金の額が上がっているのもそれに起因すると声高に嘆いていると」
民の不満をエルダに向けるつもりか。
そう吹聴した者がいるはずだ。彼女一人では何もできない。
物価の上昇や税金に関する不満を耳にし、「どうして?」とヤンエイ公爵に質問する。公爵はエルダのせいだと言う。そうすれば元からエルダに良い印象を持っていなかった女王はエルダを悪者にし、剰えエルダとの戦争は正義のためなどと抜かすだろう。
その正義で払われる犠牲は彼女にとってただの数字でしかなく、エルダを悪者にするための道具でしかないのだ。
私は手元に来た招待状に目を向ける。
女王からのお茶会の招待状だ。
「行かれるんですか?」
「ああ」
「では準備をしておきますね」
「ああ、頼む」
民の不満は高まる一方。それに一切配慮されることなく上がり続ける税金。
「ルーの話だと女王が執務を行ったことはないそうです。それは男の仕事であり、女の仕事ではないと。ご自分を貴族令嬢か貴族夫人と勘違いされているようですね」
代わりに執務を行っているのはヤンエイ公爵。貪欲で野心家な男に実権を握らせているのは自滅行為だ。けれど忠告をしようにも忠告した人間は全員、追放になった。
王宮にはもうまともな人間は残っていない。
「それと、クレタで革命が起きましたよね」
「ああ、去年の暮れだったかな。王国貴族が国庫を私物化し、国には餓死者が転がった。不満は暴動へと変わり、ついには人民が武器を取り王家を滅ぼしたそうだな」
内乱直後のためクレタはまだ落ち着いてはいないが、王家の世襲性を廃止し、民たちの中から選挙で次期王を選ぶ民主制に移行し始めている聞いたな。
「俺の方で調べてみたんですが、それに感化されている奴らがいるみたいです」
国民の不満は高まりつつあるが、まだ暴動を起こすほどではない。それに身分制である以上、彼らの中に王侯貴族に対して畏れを抱くものだ。だからこそ、あれほど国が荒れたクレタでもすぐに暴動へはいたらなかった。
「追放された貴族連中か」
「はい。このままではクレタの二の舞。追放された怒りや不満もあるでしょう。民たちを煽り、更には他国にも情報を流しているようです」
女王に好き勝手されるぐらいなら他国に王権を引き渡し、属国という形でも国として残す腹づもりか。私怨が入っているとはいえ、彼らも国を思って動いているのだろう。ただ、その国がパイデス国民をどう扱うかは現段階で不透明だが。
「他国に縋るしかないとは何とも情けない話ね」
戦争が終わり、漸く訪れた平穏を今度は守ろうとした者同士の殺し合いで失おうとしている。何とも皮肉な話だ。
「さらに悪い報せです」
「いい報せだったことなんて女王即位からほとんどないでしょう」
これ以上何があるのだろう。
「ヤンエイ公爵が大量の武器を売り捌いています」
公爵は武器の密輸や売買をして財を成した一族。エルダとの戦争では飛ぶように売れたでしょうね。エルダにもこっそり武器を売っていたという噂があった。証拠がなかったために前王陛下も罪を償わせることができなかったし、彼は多くの武器を扱う。そのため関係は良好なままでいたかったというのもあるだろう。
「エルダとの戦争準備を始めているとか」
「女王はこのことを」
「知る由もありません。ですが、ここ最近エルダが魔鉱石を独り占めしていることを陛下は王宮内で嘆いているそうです。物価の上昇や税金の額が上がっているのもそれに起因すると声高に嘆いていると」
民の不満をエルダに向けるつもりか。
そう吹聴した者がいるはずだ。彼女一人では何もできない。
物価の上昇や税金に関する不満を耳にし、「どうして?」とヤンエイ公爵に質問する。公爵はエルダのせいだと言う。そうすれば元からエルダに良い印象を持っていなかった女王はエルダを悪者にし、剰えエルダとの戦争は正義のためなどと抜かすだろう。
その正義で払われる犠牲は彼女にとってただの数字でしかなく、エルダを悪者にするための道具でしかないのだ。
私は手元に来た招待状に目を向ける。
女王からのお茶会の招待状だ。
「行かれるんですか?」
「ああ」
「では準備をしておきますね」
「ああ、頼む」