side .シーラ

「女王陛下、どうしてあのような勝手なことをしたんですか?おかげで議会はめちゃくちゃです」
父の側近だったイグナーツはため息をついてまるで私を仕方がない子供のように扱う。
今までならそれで良かった。私は王女だったし、彼は王である父の側近だったから。でも今は違う。私は女王で彼は私の部下なのに。昔のままでいてもらっては困る。
私が幼い時からの知り合いだからいけないのよね。すぐに切り替えろなんて無理だし。しばらく様子を見て直らないようなら側近を変えようかしら。
すぐに変えるのは悪し、誰にだってやり直すチャンスは必要よね。
「聞いていますか、陛下」
「聞いてるわ。何が問題だと言うの?私は私なりにこの国を思って提案したのよ。それに提案だって通ったじゃない」
「それは、ルーエンブルク女公爵があなたの政策を施行する上で一番問題になるスラムの住人を引き取ると言ってくださったからです。そうでなければこうもすんなり通るわけがありません」
何よそれっ!
まるでアイリスの手柄みたいな言い方。私が提案したのに。
「アイリスがなんだって言うのよ。怠惰な人間に働き口を与えるだけなのにお金まで要求してきて、しかも三年間は彼らの税金免除って強欲にも程があるわ」
どうしてこんな身勝手な言い分が通るのよ。
「あなたはスラムの人間が本当にただ怠惰なだけだと思っているんですか?」
冷え切ったイグナーツの目に私は言葉を詰まらせる。
イグナーツって怒らせると怖いのよね。お父様よりも怖いんだから。まぁ、お父様に怒られたことはないけど。
「このままでは死しかない状況を誰もが好んで受け入れていると?働くぐらいなら死んだ方がマシだから働かない連中がスラムに集まっているとでも思っているんですか?そんなわけがないでしょう。少しは頭を使ってください」
「イグナーツ、あなた誰に向かってそんなことを言っているの?私は女王なのよ。どうして否定的なことばかり言うの」
「それは私が国を想う忠臣だからです」
「嘘よっ!それが事実なら私の提案を受け入れるはずだもの。私が議会で提案したことはこの国を思ってのことだもの。イグナーツ、あなたは国を想う忠臣じゃないわ。ただ私のことが嫌いなんでしょう。仕事に私情を挟むのは未熟者です」
「私が嫌いなのは無能と無責任な人間です」
どっちも私に当てはまらないじゃない。それなら、どうして私の邪魔ばかりするの。
きっと私がお父様の娘だからって侮っているんだわ。やっぱり、イグナーツはダメね。彼では政治を私物化してしまうわ。私のことも陰で操るつもりね。
私は議会でのことを考えた。私の提案がどれほど国のためであるかを理解し、賛同の意を示した者が何人かいた。まぁ、その後でアイリスの提案にも賛同していたのは気に入らないけど、イグナーツを使い続けるよりかはマシだろう。
このまま彼を使い続けたところで私が理想とする国は作れない。
「もういいわっ!この話はこれで終わり。仕事は山程あるんだから」
まだ何か言いたそうなイグナーツを無視して私は席を立った。
「どちらへ?」
「お友達とお茶会よ」
「書類仕事が残っています」
「それは男性の仕事でしょう」
全く、何を言っているんだか。
女の仕事はお茶会や社交界に出て情報収集したり、いろんな人脈を築くことじゃない。男のイグナーツから見たらただ遊んでいるようにしか見えないでしょうけど、これだって立派な仕事なのよ。
お父様はどうしてこんな口答えばかりの使えない人間を使っていたのかしら。国王としてのお父様は理解できないことばかりだわ。