「このまま君が一人ここに残った場合、俺と無関係だと判断されてつまみ出されかねない。俺もここに君を引き入れた責任もあってとがめられる可能性もありだ」

「た、確かに……」

鋭い視線を私たちに向ける警備員から思わず目を逸らす。

私の返事を待たずに、彼は私の背中に腕を回すと、エレベーターの中に自然なまでにエスコートした。

そして、警備員に爽やかな笑顔で会釈すると、エレベーターの扉を閉める。

尚も伺っている警備員の目は扉が閉じる直前ようやく安堵の色でこちらから視線を外した。

ふぅ。そりゃそうだよね。

部外者なんかこんなマンションに入れたら一大事だもの。

それにしても……。

背中に回された腕に意識が行き過ぎて、呼吸は完全に止まっている。

硬直した私の背中に気づいたのか、彼はフッと微笑むとその腕を外した。

ドキドキする胸を押さえ、ようやく空気を胸いっぱい吸い込んで彼にペコリとお辞儀をする。

「ごめん、ちょっと強引だったかな」

そう言った彼が、前髪を上げながらはにかんだ横顔は一枚の絵画のようにきれいだと思いつつ、慌てて首を横に振りうつ向いた。

エレベーターは最上階に止まり、扉がゆっくりと開く。

すごい。最上階に住んでる人なんだ。

経営者？またはそのご子息？パイロット？弁護士？医者？

とにかく、私の知り合いにはいない天上界に住む人に違いない。

彼の後ろ姿ならドキドキが少し落ち着くと思いながら、その後を追った。

エレベーターから一番離れた角部屋の扉を開けながら「どうぞ」と彼は笑顔を向ける。

ここまできたら、彼がいい人だと信じてこの流れに身を任せるしかない。

そのうち美咲からも連絡が入るはずだ。