「あの……大丈夫?」

彼は笑みを湛えたまま、もう一度私に尋ねた。

我に返った私は、背筋を伸ばしとりあえずこの瞬間の無礼を詫びる気持ちで一礼する。

「すみません。ここに住む友達のところに来たんですけど、部屋番号忘れちゃって……」

「そうか。とりあえず俺と一緒に入れば?」

男性が自分の持っていたカードを扉の横のリーダーにかざすと、がっちり閉じていた入り口がたやすく開いた。

え?

いいの?こんなに簡単に入れてもらっちゃって。

開いた扉の前で立ち尽くす私に顔を向けた彼はそんな私を驚いた様子で首を傾げる。

「入らないの?」

「どこの誰かもわからない私を入れて下さって大変ありがたいんですけど、本当に入っていいのかなぁって」

彼はくすっと口に手をやり笑う。

「そんな風に考える人に悪い人はいないでしょ」

そう言うと、私の腕を優しく掴みマンションのホールに引き入れた。

うわー。こんな素敵な男性に腕を掴まれてる。

大きくて熱い手。顔が熱い。

彼に促されるまま、ホールに入ったもののエレベーターの前で再び立ち止まった。

結局部屋番号がわからなければ入ったところで何階に行けばいいのかわからないわけで。

「お友達とは連絡つかない?」

「はい」

スマホの画面を見るも、着信はまだなかった。

「もし君さえ嫌じゃなければ、お友達から連絡入るまでうちで待てばいいよ」

うちで待つ??

目を大きく見開いて彼の顔を見つめた。

相変わらず涼し気な笑顔。

服装は、シンプルな白いトレーナーにジーンズ。

きっとこのトレーナーもどこそのブランドなのだろうか。

外見からは悪い人には見えないけれど、普通見ず知らずの人間を家に招く?

「嫌……とかではないですけど」

戸惑いつつ答えると、急にきれいな彼の顔が私に近づき耳元でささやいた。

「ここのホールの警備員、結構うるさいんだ。ほら、見て。君のこと疑わしい目でずっと見てる」

彼が目配せした先にカウンターがあり、そこに警備服を着た男性が後ろに手を組んだままこちらをじっと見ていた。

なんと、警備員付きのマンションだったとは!