何号室だっけ?

確か上層階のはずだけど。1050?いや、808だっけ?

慌ててLINEのやり取りの中に残ってないか確かめるも、どこにも書かれてはいない。

カバンから手帳を引っ張り出してメモしてないか探してみるけれど、やはりなかった。

ごめん!美咲ー!いつもこんなだから美咲との差が開いていっちゃったんだろねぇ。

『樹は爪が甘いのよ』という美咲の高らかな笑い声が聞こえるようだった。

とりあえず、入り口の前で美咲に電話をかける。

呼び出し音が鳴る。

……鳴ってる。

しばらく鳴っていた。

……どうして出てくれないのよー?

今日だよね?今日約束してたよね?

一旦スマホを切り、急に自分のとんだ勘違いじゃないかと不安になり手帳を広げる。

大丈夫、間違いなく美咲との約束は今日だ。

そして、もう一度気を取り直して美咲に電話をかけたけれど、呼び出し音が無機質に鳴り続けるだけだった。

はぁ~、もう嫌になる。いつもはすぐに出てくれるのに。

今日はいい夢見たのに全く当たってないじゃない!

「お困りのようですがどうかしました?」

頭を抱える私の背後で誰かの声が聞こえた。

いきなりのその声の主の出現に、思わず「ひっ!」という声が出てしまう。

恐る恐る声の方を振り向くと、一人の男性が立っていた。

長身イケメンスタイル抜群な、どんな角度から見ても完璧な男性が。

ふと、どこかで会ったことがあるような気がした。

知性と品性を湛えた額、この優しい切れ長の眼差し、引き締まった口元。

こんな高級マンションに住むイケメンと出会ってるなんてあり得ない。

心の中で自問自答しつつ、口を閉じるのも忘れてその美しい男性にしばし見とれてしまう。