「さて……と、ようやく今から樹ちゃんと落ち着いてデートできるな」

「デート?さっきしたのに?」

「さっきのは途中だっただろう?これからが本番。きちんと君に伝えたいこともあるしね」

「伝えたいこと?」

「ああ。そのためにとっておきのディナーを予約しているんだ」

彼はそう言うと、私の手を握りしめ歩き始めた。

薄暗がりの中で彼の姿だけが明るく輝いているように見える。

現実味のない景色。どこかで見たような……。

「これは夢なんでしょうか」

私は夢心地でそっと彼の背中に問いかける。

彼は笑顔で振り向き言った。

「君とはずいぶん前に夢で出会ってる」

「夢で出会ってるって?」

「初めて樹ちゃんを見た時、初めてじゃないって思ったんだ。どこかで会ったって。それでずーっと考えてたら、一度君が夢に出てきたことを思い出した」

「まっさかー。神楽さん、それはファンタジーですよ」

神楽さんは「ふふ」っと嬉しそうに笑うと前を向いたまま言った。

「だから今は夢じゃないってはっきり言える。ここにいる俺も樹ちゃんも現実だ。だからこれから起こることは全て現実として受け止めて」

これは現実。

夢じゃない。

起こりえないってことが今現実に起こってる。