カフェの外に出ると、空はうっすらオレンジ色に染まり始めていた。

そして、扉のすぐ横に神楽さんの姿を見つける。

「ずっと待ってて下さったんですか?」

驚いて彼に尋ねると彼はさも当然という表情で答えた。

「待ってるって約束しただろう」

私はペコリと頭を下げ、そして心配そうな表情の彼に微笑む。

「その表情はいい話ができたってことだね」

彼も安堵の表情で頷いた。

「いえ、まだよくわかりませんが、これからです。でも……」

気持ちが高ぶってこぼれそうな涙を堪えて言った。

「父と話ができてよかった。神楽さんのお陰です。ありがとうございました」

神楽さんは自分のハンカチを取り出し私に差し出す。

「俺のお陰じゃない。樹ちゃんの勇気だ」

彼のハンカチはふわふわで上質でいい香りがした。

私の持ってるハンカチとは大違いだ。

やはり住む世界が違う。

彼のこと好きになってはいけない?

あまりに違いすぎたら、この先、後悔することになるかもしれないんだよね。

だけど、その思いを断ち切る後悔とその先に訪れる後悔だったら、私は後者を選びたい。

母が最期に「父が生きている」と私に告げた時、きっと離れ離れになったことを後悔していたからだと今はわかるから。