3.
彼からの電話はない。最後に会ってからもう一カ月近く経とうっていうのに。
もちろんかかってきたって、これまで通り電話に出るつもりはないけれど。例えそうであったとしても、「次は電話に出て」なんて思わせぶりなこと言っといてかけてこないのもどうかと思う。
やはり、天下の神楽財閥一族。
元々私なんかとは住む世界が違うわけで、言ってることもやってることも理解不能で異次元だってことだ。
そのうち彼のことも自然と記憶から抹消されるに違いない。
……んん~!
もやもやするっての!!
日曜の朝、そんなことに囚われているせいか一段とまとまりにくい自分の髪にイライラが倍増する。
今日は苦手な薄曇り。
湿気が多いとまとまらず爆発する私の髪なんていっそのことばっさり切っちゃえばいいかもしれない。
うん、そうしよう。
半分やけくそな気持ちで身支度を整え、美容院に予約を入れた。
外に出ると、むわっとした湿気と若干の雨の匂い。見上げるとねずみ色の雲が一面空を覆っていた。
若干の蒸し暑さを感じカーディガンの袖をまくり上げ、急ぎ足で駅に向かう。
こんなむしゃくしゃした日は、やはり囲碁を打つに限るわけで。
美容院に行く前に、囲碁サロンに立ち寄ることにした。
午前中のサロンはいつも空いている。
二、三組の常連さんが既に囲碁を打っていた。
誰か来ないかな。
サロンの隅にあるソファに腰を下ろし、相手をしてくれる人を待つ。
こういう日に限って誰も来なかったりするのよねぇ。
ついてない日は最後までついてなかったりする。
その時、サロンのドアがパタンと軽めの音を立てて開いた。
「おはようございます」
受付のおばさんに笑顔で挨拶して入ってきたのは、プロ棋士の西城さんだった。
目が合ったので、思わず立ち上がり会釈をする。
うわ、また西城さんと?
西城さんは私ではないもっと上手な段持ちの人とやりたいはずだ。それなのに私が一人待ってたら声掛けざるを得ない。
今日はあきらめて退散しようか。
軽く息を吐き帰ろうと立ち上がると、西城さんがニコニコしながらこちらに近づいてきた。
「樹ちゃん、今日もお相手お願いできるかな?」
「私でいいんですか?なんだか申し訳ないです」
「いやいや、こちらこそサロンで人気者の樹ちゃんを独り占めさせてもらってありがたいんだ。迷惑じゃなければ是非に」
「そんな~!では、お言葉に甘えてよろしくお願いします」
これはラッキーと思うべきなのか?
西城さんとはこれで顔を合わすのは三度目だった。
毎回優しく話しかけてくれるんだけど、滅多にお目にかかれないはずのプロ棋士さんと私ごときなんかがしょっちゅう対局させてもらうのはなんだか気がひける。
それに……。
西城さんは一緒にいると居心地がいいようで、悪いような不思議な感覚があった。
彼からの電話はない。最後に会ってからもう一カ月近く経とうっていうのに。
もちろんかかってきたって、これまで通り電話に出るつもりはないけれど。例えそうであったとしても、「次は電話に出て」なんて思わせぶりなこと言っといてかけてこないのもどうかと思う。
やはり、天下の神楽財閥一族。
元々私なんかとは住む世界が違うわけで、言ってることもやってることも理解不能で異次元だってことだ。
そのうち彼のことも自然と記憶から抹消されるに違いない。
……んん~!
もやもやするっての!!
日曜の朝、そんなことに囚われているせいか一段とまとまりにくい自分の髪にイライラが倍増する。
今日は苦手な薄曇り。
湿気が多いとまとまらず爆発する私の髪なんていっそのことばっさり切っちゃえばいいかもしれない。
うん、そうしよう。
半分やけくそな気持ちで身支度を整え、美容院に予約を入れた。
外に出ると、むわっとした湿気と若干の雨の匂い。見上げるとねずみ色の雲が一面空を覆っていた。
若干の蒸し暑さを感じカーディガンの袖をまくり上げ、急ぎ足で駅に向かう。
こんなむしゃくしゃした日は、やはり囲碁を打つに限るわけで。
美容院に行く前に、囲碁サロンに立ち寄ることにした。
午前中のサロンはいつも空いている。
二、三組の常連さんが既に囲碁を打っていた。
誰か来ないかな。
サロンの隅にあるソファに腰を下ろし、相手をしてくれる人を待つ。
こういう日に限って誰も来なかったりするのよねぇ。
ついてない日は最後までついてなかったりする。
その時、サロンのドアがパタンと軽めの音を立てて開いた。
「おはようございます」
受付のおばさんに笑顔で挨拶して入ってきたのは、プロ棋士の西城さんだった。
目が合ったので、思わず立ち上がり会釈をする。
うわ、また西城さんと?
西城さんは私ではないもっと上手な段持ちの人とやりたいはずだ。それなのに私が一人待ってたら声掛けざるを得ない。
今日はあきらめて退散しようか。
軽く息を吐き帰ろうと立ち上がると、西城さんがニコニコしながらこちらに近づいてきた。
「樹ちゃん、今日もお相手お願いできるかな?」
「私でいいんですか?なんだか申し訳ないです」
「いやいや、こちらこそサロンで人気者の樹ちゃんを独り占めさせてもらってありがたいんだ。迷惑じゃなければ是非に」
「そんな~!では、お言葉に甘えてよろしくお願いします」
これはラッキーと思うべきなのか?
西城さんとはこれで顔を合わすのは三度目だった。
毎回優しく話しかけてくれるんだけど、滅多にお目にかかれないはずのプロ棋士さんと私ごときなんかがしょっちゅう対局させてもらうのはなんだか気がひける。
それに……。
西城さんは一緒にいると居心地がいいようで、悪いような不思議な感覚があった。