右手にスマホ、左手にメモ用紙を握りしめたまま、ぱっと部屋を飛び出す。


慈雨の頭の中はさっきまで電話のことでいっぱいだったのに、今はあっという間にテレビ番組の内容に切り替わっていた。


リビングに入ると、テレビの前を陣取っていた妹・雨音(あまね)が、「早く早く」と手招きしてきた。


6歳下の妹はまだスマホもパソコンも持っておらず、代わりにテレビが大好きで、我が家のテレビ奉行になっている。



大画面に映し出された、桜をモチーフにしたきらびやかなセット。


画面中央の大階段から出演者が次々と現れ、スタジオにおりてくる。


歌番組のオープニングだ。


大人数のダンス&ボーカルグループが階段をおりきったところで、テレビ画面の上部に二つのシルエットが現れた。


瞬間、
慈雨の胸はトクントクンと高鳴り、視線はテレビの中に釘付けとなる。


金髪に近い茶髪に、ピアス。


やんちゃそうな風貌で、カメラに向かってニヤリと笑みを浮かべて手を振る。


青山尚(アオヤマ ナオ)だ。


そして、その隣……


黒髪短髪。好青年風の男の子。


慈雨は、「はぁ…今日もカッコいい…」とため息をついた。


彼こそが、慈雨の想い人。