「どうしたの?」と駆け寄ってくる伊織に我に返れば、私の手の中にあるものを見つめ「何だよ、コレ」と低く声を落とす。説明しようにも何と言えばいいのか⋯⋯?「誰だよ?」と怒りを抑えることなく零す一言に、ハラハラしつつ「分からない」と首を左右に振る。

 今にもキレそうな彼の側で目下私の心配事といえば、失ったデータと今後重なる携帯本体のローン。私生活に直結するマネー問題にこの前から最悪だと項垂れていると、私の背後で「いい加減にしろよ⋯⋯」と聞き慣れた声がその場に小さく反響していた。それはブチ切れ寸前の彼のトーン。過去に私も一度だけ聞いたことのある怒りの呟きだった。

「こんなつまんない嫌がらせして楽しいか? あぁ!?」

 突然聞こえた怒号に伊織と二人反射的に後ろを振り返れば、くだらないと前髪をかきあげながら眉間に深いシワを寄せた千知が気だるそうに突っ立っている。目星がついていたのか、特定の女子たちに冷たい視線を送っているところだった。

「誰とは言わないけど、やった本人たちなら分かるだろ? 今度また、『こいつ』に同じことしたら⋯⋯その時は君らクビだから。分かったか!!」