言う私に【知ってる】と少しムキになった声色が返ってきた。そういうところが子供なんだと心密かに思いながら、グリーンに灯る自販機のボタンを押す。ガシャンと音を立て落ちてくる冷たい缶を左手に元いた位置に戻ると、膝に置いたバックの細い縦縞を無意識に数えていた。

「それで? 何か連絡事項があったから電話くれたんじゃないの?」

 携帯を耳と肩の間に挟み開けるプルタブ。コーヒーの芳ばしい香りに気持ち軽減されたストレスは、【あぁ、そうだった】という元通りの呑気なその声にも解消されるとまではいかなかった。

【明後日、俺ら帰るだろ? その前にひと仕事出来た】

「どういうこと?」

【今まさに聞こえてるだろ? この音】

 確かに。近すぎる現場的な機械音が気にはなっていた。

【明日、急遽ホテルでショーをやることになったんだ】

 軽く悲鳴を上げる私に、規模は今まで手がけた中では一番小さいと言う伊織のフォロー。こちらはまだ『聚楽──Juraku──』側とはまともな打ち合わせも行っていない。そんなこの状態でショーだなんて。こっちに来て私が手がけたことといえば、つまみ細工のピアスと下がり簪を数個作っただけ。