あれは伊織の明確な意思表示。最初はただからかわれているだけだと思っていたけれど、今朝からあかりの視線が痛いほど私に対して優しいのだ。それには透吾も「ほぅー」とさすがに何かを感じ取っている様子で。それは冗談でもおふざけでもない真剣な彼の気持ちだった。

 けれど、答えを求められた訳でもない。

 ただ、思いを告げられただけ。

 だから余計にどういう顔をして伊織と向き合えばいいのか分からなかった。

【困らせるつもりはなかったんだけど⋯⋯困っちゃったよね⋯⋯昨夜はいきなりごめん⋯⋯】

 私はいつも彼に気を遣わせている気がする。年上である自分の方がしっかりしなければならないのに、立場はまるで逆転していた。

「イオが謝ることじゃ……。でも、正直⋯⋯戸惑ってる。私の方こそ、何か⋯⋯ごめんね」

【あんなことするつもりじゃなかったし、自分の気持ちも⋯⋯伝えるつもりもなかった。俺なんかきっと相手にされないって分かってたし。でも、高村さんとの話聞いて、絆利はまだあの人を思ってて、それでまだ苦しんでるって知ったら⋯⋯⋯⋯────高村千知に絆利を取られたくないって思った⋯⋯。渡したくないって】