ワックスの剥がれた床を流れるよう滑るそれは、色鮮やかな着物がたくさんかけられてあるラックにぶつかり止まる。慌てふためきながら「ごめんなさい! すみません!」と謝り仕舞った小物を抱え席を立てば、背後でクスクスと笑う声が微かに聞こえた気がした。

 所詮、私は嫌われ役なのだ。分かっていながらも損な性分が残念でならない。ここまでくると仕方のないことだと諦める他なく、平然としている私の存在がまた女たちの反感を買うのだ。

「バッグが⋯⋯ごめんなさい。お着物大丈夫ですか?」

 着物には掠ってもいないのだから、小さなバッグひとつ当たったところでどうこうなるとは本気で思っちゃいない。けれど社交辞令も必要で、その具合いを窺うのは今回コレクションに参加するブランド『Toxic』のデザイナー、久保俊介(くぼしゅんすけ)⋯⋯だったか?

「これらは大丈夫。それより⋯⋯」

 そう言葉を詰まらせる彼に「毎度のことなので」と答えそれを拾い上げようと腰を屈める。バッグを掴もうと右手を伸ばした時だった、私以外の大きな手がそれをさらうよう掴みあげていた。

「あれ?」と呟いたまま、ものの見事に手からすり抜けていく自身の持ち物。腰を上げ広がる視界に入ってきたのは、数枚に渡り並べられ大きな写真たち。モダンで懐かしくもありながら、可愛らしく斬新な着物たち。矢絣に似た柄やカラフルなストライプ、モノクロの幾何学模様に対称的な古典柄。多種多様、様々なスタイルの和服たちを着こなすモデルたちは皆どれも美しく、そして光輝いて見えた。