「いや⋯⋯あのっ」

 都合の良い言い訳など浮かばず撃沈。謝るべく振り返れば、濡れた髪をタオルで拭きながら現れたその人に、気まずい限りだった。

「あの⋯⋯ごめん⋯⋯なさい。インターホン鳴らしたんだけど⋯⋯反応なくて。イオ⋯⋯じゃなくて、榊くんには誰かいるって聞いてたものだから。でも⋯⋯まさか、あなたがいたとは」

 欲しいのは良縁だが、私は余程悪縁に恵まれているらしい。昨日は助けられもしたが、面倒ごとに巻き込んでもくれたそいつ(●●●)の正体は、『御曹司』が肩書きで通るお金持ちのボンボンだったのは衝撃的だった。

 その腐れ縁の相手が今、目の前にいる────。

「シャワー浴びてたんだ。気づかなくてごめん」

 言うとキッチンに向かう彼は冷蔵庫を開けミネラルウォーターを取り出す。それは私たちの寄宿舎の冷蔵庫にあるものと同じだと、そのラベルをぼんやり眺めていた。

「連絡は受けた。昨日会った榊ってヤツから。それ企画書?」

 ペットボトルを手に今一度近づいてくる彼は、テーブルに置いたファイルを指差し催促するよう手を出す。