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 ブランド名は『聚楽──Juraku──』。初めて聞く日本語だったが聞いたところによると、椿の品種から来ているらしい。その意味合いは「人が楽しく集まる場所」────だそうだ。彼らしいブランド名だと思った。

 歩きながら眺める企画書。焼けたアスファルトに「へぇー」と興味なく独り言を落とせば、目に見えぬため息が生ぬるい風に吸い込まれていく。

 昨夜遅くの帰宅と聞けば、鳴らすのが躊躇われる玄関先のインターホン。だとしても無断で上がるわけにもいかずボタンを一押しし、クリアファイルに入れた書類を胸に抱えたままその場で何かしらの反応を待った。けれど中からは人の気配は疎か、返事も何も返っては来ない。まさかの不在? と躊躇いがちに手をかけたドアノブは何の引っ掛かりもなく開き、恐る恐る踏み入れる玄関から取り敢えず「こんにちは」と声をかけてみる。やはり返ってはこない反応にこのまま帰るべきかとも考えたが、こんなしょーもないことで悩んでも時間の無駄だと失礼を承知で靴を脱いだ。

 昨日の今日で勝手知ったる他人の家。伊織が話をしてくれているはずだからとリビングに直行。書類を目についたダイニングテーブルの上に置き帰ろうとしたその瞬間、「誰?」と聞こえた低い声に驚き青ざめた。