「一人で平気?」

「大丈夫だから⋯⋯って、何を気にしてんの?」

 その場でヒソヒソとしたやり取りをしていると、「伊織、行くわよ」とあかりが不機嫌そうに彼を呼んでいた。

「じゃあ、俺たち先には帰ってるから」

 頷き答えると、沙帆と向き合う。

「────で、話って?」

 視線がかち合う。ここで目を逸らしてしまえば負けのような気がして、堂々と彼女の顔を見返した。

「どういうつもり?」

「何が?」

「さっきのことよ。『恋人』だなんて。あんたたちただの友達でしょ? それを、いつの間に彼に取り入って自分を売り込んでたの?『つまみ細工職人』伏見絆利────って。勝手に理由もなくいなくなったのはどこの誰よ!? なのにいつまで彼にしがみついてるつもり? 自分が情けなくないわけ?」

 ただの友達、ただの友達────うるさいったらありゃしない。そんなこと何度も連呼されなくで分かってるよ! その上、「勝手に理由もなくいなくなった」なんて、どの口が言うんだか。事の原因は彼女の存在でもあるというのに……。