「ホテルの経営者って⋯⋯まさか、このホテル? 千知⋯⋯御曹司だったの?」

 指さすのは目の前に悠然と聳え立つ豪華な外観。そうだと当たり前のように頷く彼に、思いっきり脱力していた。

 エライ男と友達やってたものだ。そりゃあ、今更肩を並べることなど出来はしない。相応しくないと思われても当然だなと笑えた。

「ところで、さっきのお金はまた返すから。フロントにでも預けておいたら受け取ってもらえるでしょ?」

「必要ない」

「誰にも借りを残したくないから」

 そろそろ皆を探さなくてはとバッグから取り出した携帯に残る着信。『イオ』の文字を見つけ急いで折り返す。先程までの騒ぎの最中にかかってきたであろう着信は、周りの騒音や自身の慌て様に気づけないでいたのだ。

 何度目かのコールの後、やっと繋がった電話。機械越しにでも聞こえる聞きなれた声に、この地について初めて心の底から安堵していた。

「何で電話に出てくんなかったの!?」

【ごめん! 携帯の電源入れたつもりが、マナーモードになってて⋯⋯】

 先程気づいたのだと、大凡悪びれたふうもなく一応謝る友人にただただ吐き出すため息。

【絆利の方こそ、いきなりいなくなるなよ!】

「言うんだったら探してよ! こっちは災難だったんだから!!」

【え? 何かあったの?】

 そういけしゃあしゃあと聞いてくる彼に、あったどころの話ではないと答えながらも、それ以上説明することはしなかった。