どこか切なく尾を引くその眼差しが、何となく印象に残る。

 思えば、今の今まで彼の口から家族の話を聞いた覚えはないなと思い返していた。そこまで深い話をするほどの関係でもなかったのかもしれないと思うと、かつての友情関係すら否定されているようで。

「妙なことに私を巻き込まないでくれる?」

「だな⋯⋯悪かった」

「悪いと思うなら、前言撤回しといてよ。私たちは"ただの"友達でしょ? 初対面でこう言っちゃ失礼だけど、あなたのお母さん? 私は……ちょっと苦手」

 もう遠慮も何もない。あそこまで貶されたのだから、それについてはこちらも取り繕う気はなかった。

「今はほぼ一人で、高村グループを取り纏めている人だ。このホテルの経営も含めて、財閥全体の代表でもあるし。昔はあそこまで酷い人ではなかったはず、なんだけどな」

 忙しい人なんだとフォローする姿に、細くも感じる親子の絆。

「そう⋯⋯」と感情なく答えたつもりが、彼の言った言葉に「えぇ!?」と悲鳴にも似た小さな叫び声が思わず漏れてしまった。