「見つけて欲しくなかったので、ここにいたのですが？」

　黒のワンピースに真っ赤なジャケット、胸元にはネイビー色した花のコサージュ。その女性のステイタスを例えるなら⋯⋯やはりそう「セレブ」という単語が当てはまる。彼の冷めた態度に「全く⋯⋯」とため息混じりに呟き、こちらを睨むよう見据えていた。立ち居振る舞いこそ上品に「セレブリティ」感を醸し出しているが、その印象はお世辞にも決して良いと言えるものではない。

「こちらの方は？」

　困惑気味な表情を隠すこともできず、オロオロしたままとりあえず会釈。

「俺の恋人です」

「⋯⋯────はぁ！？」

　だから『彼女』とは結婚するどころか、婚約する気もない────と私の肩をより強く抱き、強引に引き寄せた。

　正確には『友人』。付け加えるならば『ただの』という文句がその単語の前に組み込まれるくらい薄っぺらい関係。なのに、いきなりの爆弾投下に瞬きを忘れるほど目をひん剥く。「そんな勝手は許さない」とか、「俺にも選ぶ権利はある」とか、親子喧嘩にも聞こえる言い合いを他所に、状況を整理しようと懸命に努めていた。その時、視界に入ったもう一人の女の人と目が合う。向こうも驚いた様子でこちらを見つめ返していた。