「新進気鋭のブランドなんだよ⋯⋯⋯⋯って⋯⋯おい、聞いてるか?」

「絆利!」と名前を呼ばれ我に返る。知り合いなのか? と問われ慌てて知らないフリをした。

 もう二度と会うことはないと思っていた相手。

 どこで私の名前を知ったのだろう?

 このご時世ネット検索にかければ何かしらヒットするものだが、探そうとしなければ見つかりはしないはずだ。────私のことなんか⋯⋯。

「トキさん、今回は私外れたいです。実は店につまみ細工の注文が結構来てて⋯⋯」

「何だよ今更。お前の本業ならお客さんに許可もらって少し待ってもらってるって直哉も言ってたし、俺の方からも声掛けて了承を得てる。急ぎの仕事は仕方ないからアイツの知り合いの職人にお願いしたって聞いたぞ。直哉もお前のためなら、いくらでも協力してくれるってよ」

「でも⋯⋯申し訳ないですけど⋯⋯今回の仕事、私できません」

「何でだよ? お前にとっちゃいい話じゃないか! それにな、こちらも念押しされてるんだ。『伏見絆利』が断れば、この企画自体なかったことにするって」

「えぇ!? そんな横暴な」

 言ってることが無茶苦茶だと頭を抱える。