何はともあれ過去は過去。自分ではどうしようもないことを今更気にしてもしょうがないと胸を張る。「新しい恋なんか、どう?」とそっと問う彼女に、伊織とはやはりただの「お友達」と返した。お互いが恋愛対象圏外だと話す私に、透吾はどうかとも言う。確かに彼は私たちよりも年上の大人な男だが、彼も同じだとそれを笑って流す碧子とのやり取りは、出し尽くされた日常会話のひとコマ。

 しかしながら、無駄なほどの爽やかさを振りまく彼らの姿は、どこか目を引くのも確かだった。

「よぉ! 絆利、久しぶりだな。お前もコイツの出迎えか?」

 紺色のジャケットの袖を捲りながら、顔を上げる伊織を指差し近づいてくる透吾の顔は、はっきりいってニヤついている。何なら相談に乗るぞ? と妖しく上がるその口角に、「だったら言ってくれればよかったのに」と面白がっている本人に尚のこと肩を落とした。

 ドライだよね? そうよく言われる。自分ではただ普通にしているだけなのだが、無気力だとか興味なさそうだとか、とにかく淡白な性格だと言われることが多いのだ。