「ちょっとおー、閉めなくてもよくない?」
反射的にドアを占めようとしたら、にへらっと笑った卑猥男が、足でそれを阻止してきた。
「何なんですか急に!」
「ナニってだからぁ、引っ越しのご挨拶?」
「逆でしょ逆!私が後から引っ越してきたんだから!」
「あ、なるほど?じゃ、引っ越し祝いもらいにきました~」
「ちょっ、ちょっと!!」
へらへら笑ったまま、片手にミカン一つのせて私の部屋に侵入してくる卑猥男。
「おー、綺麗すぎでも汚すぎでもない、ちょーどよいOLの部屋って感じだね~」
「勝手に入ってきて勝手に人の部屋の批評しないでください!通報しますよ!?」
「通報ってオオゲサだなぁ、俺ら隣人のヨシミじゃん~?」
そして勝手にラグの上に腰かけると、ノンキな顔でミカンを剝き始めた。
はぁ……
「…何しにきたんですかホントに!」
「んー?ほら、さっきさぁ、ココちゃんちから大きい音が聞こえてきてさぁ」
…私が壁を叩いた音のことか。
「で、それ聞いてナツミちゃんがぁ、あ、ナツミちゃんっていうのは食堂で働いてるっていう女の子でー」
「知らんですけど。で!?」
「で、ナツミちゃんがここの壁薄ってなって、なんか怒って帰っちゃったんだよね急に。しかも…」
卑猥男が、いつになく悲しそうに眉を下げた。
「俺と食べるハズだったお弁当を持って…!」
「………」
「と、いうわけでお腹ペコペコなんだよねー。運動もしちゃったしー」
この人の言う運動って…絶対あの行為のことだよね!!
私は激しい頭痛を覚えながら、卑猥男から1メートルほどあけて床に座った。