占い師はイケメン総長に愛される🌙.*˚

「やってみよっかな……ありがとうございました」

 少しだけどんよりした雰囲気が解けて、明るくなった様子で彼は帰っていった。早速ほんのり笑顔を見せてくれた。彼の笑顔を見て、私の胸の鼓動が速くなった。

「えっ? あんな笑顔初めてみた!」

 学校ではクールだから、本当に笑顔を見せない。学校では全く人の心が読めなくて分からなかったけれど、彼、冷たく見えるけれど本当はすごく優しい人なのかな?
 次の日。

 学校へ行き、教室に入ると早速窓際の席にいる彼の姿が目に入る。教室全体は、がやがや生徒達がそれぞれ友達と話をしたりしているけれど、彼は席に着き、ひとりで耳にイヤホンを当て音楽を聴いている。人に冷たくて、周りに興味がなさそうな雰囲気。

 でもね、私は知ってるんだ。
 彼の心の中。

 あれから2回、続けて彼は占いの館に来店した。「笑顔を意識したら、チームのメンバーからも笑顔が返ってきた」だとか「自信を持ってチームをまとめられそうな気がする」だとか。1回40分の占い料金をきっちり払ってくれているのに、彼は私に近況報告をすると残りの時間は占いを受けずに「休んでいく」と言って、静かに座って過ごしていた。お金もきちんと払ってもらっているし、それで彼の心が安らぐのなら良いなと感じ、私は「分かりました。ごゆっくり」と言い、ふたりでぼんやりしていた。

 瀬戸一翔くんと一緒にここでぼんやりしている光景、なんだか現実味がなくて夢の中にいるみたい。

 



 
 あの日から、教室で彼のことを目で追うようになっていった。彼も視線を感じたからなのか、こっちを見て、目が合う。

彼はどんな気持ちで私と目が合っているのだろう。私が占い師だってことを彼は知らないから、多分、何でこっち見てるの?的な感じだと思うけれど。

 ――瀬戸くんと、仲良くなって、もっと彼のことを知りたいかも。

 日に日にそんな思いが強くなっていった。
 本格的に暑くなってきた時期。放課後の教室。
 一番前の真ん中の席で私は、日直の仕事である日誌を書いていた。

「なぁ」
「えっ?」

 誰もいないと思っていたのに突然声が聞こえて私は振り向いた。すると彼が教室の後ろに立っていた。
「はい……」
「なぁ、相田さん、俺のこと、めちゃくちゃ見てない?」

 突然言われたから私は戸惑う。
 しかも冷たい口調。

「あ、あの……」

 上手く言葉が出てこない。

「いや、気のせいだったら別にいいんだけど、なんか俺に言いたいことあるの?」
「別に……ない、です」
「そっか、なら良いんだけど」

 何事もなかったかのように彼は教室から出ようとする。私は急に何か話しかけたくなった。

「あの、瀬戸くん!」

 彼はドアの前で振り向く。

「何?」

「あ、あの、瀬戸くんは、優しいですから!」

 うわっ! 何言ってるの私!
 どうしよう、突然何?って感じだよね?

「ははは!」

 すると彼が全力で笑いだした。

「突然、何? 面白いな!」

 予期せぬ、おもいっきりの笑顔。
 私の心は大きくときめいた。

「え、いや、あの……」
「そう言ってくれて、ありがとな!」
「……はい」
 彼が去っていた後、私の全身がへなへなっとした。

 彼は占い師としての私を知らないし、本当に彼にとっては謎発言だよね。変な人って思われちゃたよね。何か話しかけたくて、でも、今言った言葉しか頭の中に思い浮かばなくて。

 なんて思っていたのに、次の日の放課後、彼から予想外なことが!

「今日、何か予定ある? なかったら一緒にどこか行かない?」
「えっ?」 
 突然のお誘い、何?
「いや、突然、ごめん……」
「い、行きたい、です」
 気がつけばそう彼に返事をしていた。



「バイク、乗ったことある?」
 どうやら、彼のバイクでどこかに行くらしい。
「ううん、ない」
 私は全力で首を振る。
 
 生まれて初めて乗るバイク。
 乗り心地はどんなんだろう。

 楽しいのかな?
 それとも、怖いかな?

 それよりも、何故私は彼に誘われたのか?
 とりあえず放課後、校門を出て歩く彼の後ろについて行った。歩いて五分ぐらいかな? 着いたのはマンション。エレベーターに乗り、五階で降りた。

「ここ、俺の家なんだけど、準備するから自由にして、待ってて?」

「あ、うん」
 言われるがままついていくと、いつの間にか彼の家の中へ。

 部屋全体を見渡した。
 とても綺麗で、シンプル。余計なものがひとつもない。

「部屋、綺麗だね?」
「ん? あぁ、一人暮らしだし、寝る時以外はあんまり家にいないからな」
 一人暮らしなんだ……。

 オシャレなソファーで座って待っていると彼が、着替えて出てきた。
「相田さんは、一回家に帰る?」
「いや、帰らなくても大丈夫かな?」
「じゃあ、ちょっと待ってて?」

 彼は着替えてた部屋に再び行き、すぐに戻ってきた。
「はい、これ貸す。これからの時間、バイクで走ってると風で体冷えるかもしれないから、乗る時、その半袖のブラウスの上に着といて?」
 受け取ったのは彼の薄手の黒いパーカーと、黒いジャージのズボン。
「あ、ありがとうございます」
 私は貸してくれたパーカーに袖を通し、ジャージも制服のスカートの下に履く。

 とても大きくて、小柄な私にはぶかぶか。
 彼の服を着ているのもなんだか不思議。

「よし、行こうか」
「うん」
 外に出て、彼の青いバイクが停めてある駐車場へ。

 私の分の白いヘルメットも持ってきてくれていて、受け取ろうとしたらかぶせてくれた。

 かぶせてくれて、そして緩んでいた顎紐をきつく締め直してくれた。彼の手が私の顎に触れ、距離が近くて。

「自分で出来るのに……」

 照れる気持ちを隠すように私はそう言った。素直に「ありがとう」って言えばよかったのに。
 
 先に彼がバイクにまたがりエンジンをかけた。
「後ろ、ひとりで乗れる?」
「うん、大丈夫」

 後ろに乗り、掴まる場所を探していると、彼が言った。

「しっかり、俺に掴まってて」
「ど、どこに掴まればいい?」
「手、出して?」
 質問すると彼の手が後ろにいる私の手を掴んだ。
「こんな感じで俺に掴んどいて?」
 彼は私の手を引っ張り、私の手は彼の腰をがっしりと掴んだ。
「走って怖くなったら、思い切り抱きついていいから」
 触れるだけでかなり今ドキドキしているのに思い切り抱きつくなんて、無理!って思っていたのに。

 バイクが大きな音をたてるのと同時に走り出した。最初はゆっくり走ってくれたのかな? 結構余裕だったけれど、途中から加速して。結局思い切り抱きつく感じになった。

 私の心臓の波が大きくなる。
 この波は、バイクの走るスピードが増したからなのか、それとも彼に触れる面積が増えたからなのか。

 多分、今、彼に沢山触れているから――。

 信号に引っかからずに走ってるから、まるで今、自分が風と同化したみたいな気持ちになっている。怖いなって気持ちもあるけれども、それより気持ちがいい。何かからの開放感のような、自由になれたような。
 バイクに乗ってひたすら走っている人たちの気持ちがなんだか分かるような気がする。

 多分、30分ぐらい走ったかな?

「着いたよ!」

 バイクが停まった。
 私は彼よりも先に降りた。

 風が当たってたからか、目が乾き、瞬きを沢山した。

「あのね、バイク、想像以上に楽しかった!」
「そっか、良かった」
 彼は優しく微笑んだ。
 

 

 
 着いた場所を見渡す。

 辺りは野原で何もない。その中にぽつんと建っている大きな灰色の倉庫。シャッターを開けると、部屋みたいになっていた。ソファーやテーブルもあって、布団までひいてある。
「ここ、俺についてきてくれる、俺みたいに居場所のない奴らが快適に過ごせるために作った場所なんだ」
 彼は愛おしそうに倉庫の中を見つめた。

「そうなんだ……」

 私も彼と同じ方向を見つめた。
 見つめていると人の話し声がした。
「おっ! 総長、隣にいる女の子は誰っすか?」
 ふたり組の男の子のひとりが話しかけてきた。

「同じクラスの子」

 さっきふわっと見せてきた優しい笑顔が嘘だったかのように、クールに瀬戸くんは答える。

「女の子連れてくるの、珍しいっすね」
「あぁ」

 気のせいかもしれないけれど、瀬戸くんが私の前に出て、私の姿を話しかけてきた人たちから隠している。なんでだろう?
 4人で倉庫の中へ。

「相田さん、そこ座って!」

 瀬戸くんに言われた通り、3人がけの黒いソファーに座ると、彼も私の横に座った。

 さっき出会ったふたり組の、話しかけてきた人がコンビニ袋からお菓子を出しテーブルの上に置く。

「なんか、飲むか?」
 瀬戸くんはそう言い、冷蔵庫の方へ。

「なんか総長、相変わらずクールなんだけど、最近何となく優しい表情してくれる時が増えてきて……でも姫を見る時の総長、特に優しい顔してますね。ふたりは付き合ってるんすよね?」

「えっ? 姫? それに付き合ってるって……。そんなんじゃないです!」

 私は全力で否定した。

「そんなに否定しなくても……」
 冷蔵庫から小さなペットボトルのお茶を持ってきた瀬戸くんが言う。

「あっ、ごめんなさい……」

 ん? 別に付き合っているわけでもないし、謝ることでもない、かな?

 今、目の前にいるふたり組。ずっと喋っている方は、(あきら)くん。見た目はふわふわ系で可愛い雰囲気。もうひとりの無口っぽい人は、チーム副総長の和哉(かずや)くん。身長の高さは瀬戸くんと同じくらいで高め。見た目は、歳の割には大人っぽい感じで王子っぽい、かな? ふたり共、私たちと同じ高校二年生。

 ちょっと話しただけで、とても親しみやすい晃くんとは仲良くなった。

「姫じゃなくて、名前で呼んでほしいな?」
「名前、なんて言うの?」
「唯花だよ」
「じゃあ、唯花って呼ぶから僕のこと、晃って呼んで?」
「うん、分かった」

「……そろそろ行くぞ?」

 晃くんと会話がはずんでいると、瀬戸くんが言った。ちょっと何故かムッとしている彼。

「どこに行くの?」
「ちょっと走る。バイク乗って?」
「う、うん」