最強さんは魔術少女を溺愛したい。⑤ ~最強さんの最大級溺愛は留まらない~

 どういう状況って……見たら分かると思うんだけど。

「見たまんま!殺戮魔術が召喚されたの!」

「はぁっ!?」

 信じられないといった様子の声が聞こえたけど、完全にシカトする。

 小鳥遊の話に付き合ってる暇なんか、こっちにはないって。

 殺戮魔術と敵対してる以上、命の保証はない。

 最高級の魔術師が命を懸けて鎮めた魔術だから、僕たちじゃ歯が立つ事はない。

 そして恐れていた事態が、起こった。

「……っ!」

 今まで攻撃してこなかった殺戮魔術が突然、攻撃を当ててきた。

 クリティカルヒットと言える軌道で黒い何かが飛んできて、守護する余裕もなくなる。

 窓枠から落ちてしまったけど、浮遊魔術も持っているから心配はない。

 こっちのほうが絶対、攻撃しやすいな……。

 新たな発見を呑気にしながらも、喝を入れ直して攻撃を再開する。

 さっきの攻撃でみんな、大分体力が削られた。

 僕が前線で戦ってるとはいえ、みんなにも多大な魔力を使わせてしまっている。

 他のZenith会員は大した魔力も持ってないから、あてになんかならない。邪魔になるだけ。
 さっきの攻撃で大きな風が吹き、体制も崩れさせられた。

 ……っ、あっぶな……。

 こんなヘマしてる場合なんかじゃないのに……。

 僕がこうやってヘマしてる間にも、殺戮魔術は崩壊の準備を始めている。

 それだけは、何としても止めないと。

「……?」

 だけどさっきから、殺戮魔術の動きがおかしい。

 ついさっきまでは狂ったように渦巻いていたのに、今は黒い塊と化していて動く気配がない。

 嫌な冷や汗が頬を伝い、気を紛らわせるように下唇を噛み締める。

 その瞬間、ぐいっと殺戮魔術の動きが再開され出した。

 来るかっ……!?

 もしかしたらもう一度攻撃が来ると思って構えた……その時だった。

「私の魔力を狙っているんでしょう?だからこれ以上、他の人を傷つけないでください。」

 ざわざわとしているのにも関わらず、澄んだ声が聞こえてくる。

 その声には……聞き覚えがありすぎた。

 それと同時に中央棟に現れた人影に、僕は今までにないほどの恐怖を覚えた。

「……かん、な……?」
 中央棟……つまり殺戮魔術の前に現れた人物。

 それは――地味子姿のままの、神菜だった。
 辺りがざわざわと騒然としている中、私はどうしようかと悩んでいた。

 あの殺戮魔術は、きっと意図的に召喚されたもの。

 そしてあれを収める方法は、大量の魔力を与える事。ただそれだけ。

 質の良い魔力を求めながら、世界を破壊して回る最悪な魔術だ。

 かつて一度、殺戮魔術が召喚された事があった。

 その時に騒動を収めたのが、世界で最強だと謳われていた魔術師。

 その魔術師が体内の魔力を全て殺戮魔術に捧げた事で、騒動は収まった。

 ……つまり、同じ事をしなければ鎮静化は図れない。

 それしかもう、対処法が残ってないから。

 本当ならば私が魔術師として動かなければいけない。

 ……なのに、体が思うように動いてくれない。

 もしここで魔術師だという事がバレたら、どうなっちゃうの?

 もちろん、ここでの生活はもうできなくなる。

 それは嫌。だけど、動かなければ世界が壊される。

 そうやって私が悩んでいる間にも、周りはこれでもかというほど騒いでいた。

「どうすんだよあれ!殺戮魔術らしいぜ!」
「じゃああたしたち、殺されちゃうの!?」

「今来栖様や天会長が動いてるらしいけど、全く収まってないみたい……。」

 風羽さんたちまで……?

 そんな声が聞こえてきて、意識が揺らぐ。

 皆さんに大きな被害が出る前に、何とかしないといけない。

 でも本当に、私が勝手に動いていいの?

 悩んでいる暇はないというのに、余計に考え込んでしまう。

 だけど同じようなタイミングで、大きな風が辺りに巻き上がった。

 下手したら宙に浮いてしまいそうなほど威力が強い風で、こけかけそうになる。

 あの殺戮魔術が、攻撃を始めた……?

 ……ううん、違う。

「……狙ってきてるんだ。」

 ――あの殺戮魔術は、私を狙ってきている。

 私が多大かつ良質な魔力を持っているって、バレたんだ。

 その証拠にさっきから、私の周りばかりに風が吹いている。

 当たりが強くて痛くて、気を抜いたら泣いちゃいそうだ。

 ……でも私を狙ってるって事は、私が行けば収まるのかな?

 私が生贄になってくれば、平和になるのかな?
『あんたなんかいなければ、良かったのに……っ!』

 ……あはは、そうだよね。

 私が、行かなきゃいけない。

「私が何とかしないと……正体がバレても、魔術師として動かなきゃダメ。」

 自分に言い聞かせるように呟いて、息を整える。

 そうだよ。私は元々ここに任務で編入した。

 だからこそ……“魔術師”として動かないと。

 もうバレるとか、余計な事を考えないように。

 窓枠に立って、中央棟までテレポートしようと魔力を使う。

「おい……栞、何やって……っ!」

「しーちゃんっ!?」

「落ちちゃうよっ……!栞、降りてっ……!」

 後ろでみんなが止めようと、声をかけてくれる。

 周りも私の行動にざわつき始めて、私に視線が一気に集中した。

 隠れて動いても良かった。

 でもみんなを守れるのなら……バレてもいい。

 もう逃げ道は……残されていない。

「みんな、今までありがとう。」

 私は後ろを振り返って、精一杯の笑顔を浮かべた。

 死ぬかもしれない。いや、死ぬ確率のほうが高い。

 ……だけど、どうこう言ってる場合じゃないのは分かっている。
 ――それでも、もう決めたから。

 一気に魔力を消費し、テレポートで中央棟まで移動する。

 久々に魔術を使うから、腕が鈍ってなきゃいいけど……。

「私の魔力を狙っているんでしょう?だからこれ以上、他の人を傷つけないでください。」

 私は今から、魔術師だ。

 誰が何といおうと、普通の人間には戻れない。

 理解した上で動いているんだから、悔いはないけど。

 私の声に反応した殺戮魔術は大きく動き、風邪を吹き散らしてくる。

 それと同時に私は、自ら変装を解いた。

 変装しながらは流石に邪魔だし、魔術を使うからもうバレている。

 案の定、生徒さんたちは私の姿に大きく驚いていた。

「あの地味子、元宮神菜だったのかっ……!?」

「世界中で飛び回ってるって聞いたけど、まさかこの学園にいたなんて……!」

「なぁ、俺らって元宮神菜をいじめてたって事だよな……!?」

 口々に何かを言っている生徒さんたちだけど、気にしている暇は残っていない。

 タイムリミットも、もう過ぎている。
 ……早めに片付けなきゃ。

 変装セットを使い魔に預け、私は魔術を発動させる。

 動いていた風羽さんたちは、さっき一瞬様子を見たけどかなりの重傷だった。

 だから回復魔術と治癒魔術を併用して、今休んでもらっているところ。

 ここからは私が、決着をつける。

 この殺戮魔術の弱点は、渦の中にある核だ。

 魔力を流すしか倒す方法はないけど、被害を少なくするには早めに核に魔力を流す必要がある。

 ……よし。

 この渦の中に入ったら、無事に戻れる方法はない。

 だけどみんなを危険に晒すくらいなら、私一人でいい。

 私は自分自身をそう励ましながら、覚悟を決めて渦の中へと飛び込んだ。



 流石渦の中、真っ黒だ……。

 中に入ってから第一の感想は、率直に思った事だった。

 呑気にできる場合じゃないけど、少しだけ観察をする。

「核って……あれ、だよね。」

 そしてやっと……核を見つけることができた。

 七色に光っている宝石みたいなもので、両手サイズの大きさ。

 意外と核は大きくないんだ……。
 これだけ大きな殺戮魔術なんだったら、もう少し大きいと思ってたのに……。

 そう思いながらもゆっくり、その核に触れる。

「痛っ……。」

 その瞬間に電流がバチッと思いっきり走り、思わず顔を歪める。

 結構厳重に管理されてる……でも、ここで引くわけにはいかない。

 私は強引に核を両手に収め、自分の中にあるありったけの魔力を流す。

 イメージしながら核へと流す度に、脱力感に襲われる。

 意識が、はっきりしない……。

 私の体は魔力がないとバランスが保てないようになっているから、魔力がなくなると当然しんどくなる。

 それでも屈せずに、これでもかと流し込める。

 このまま魔力を流していったら、上手い具合に核が破壊されるはず。

 それを望んで、自分の体が警告をしているのにも関わらずに魔力流しを続ける。

 渦の中に入っているせいで、風が体のいたるところに当たる。

 風圧も強いから、ところどころが掠り始めた。

 痛いけど……これくらい、何ともない……。

 風羽さんや天さんたちは、私が決断するまで粘ってくれた。戦ってくれた。