どういう状況って……見たら分かると思うんだけど。
「見たまんま!殺戮魔術が召喚されたの!」
「はぁっ!?」
信じられないといった様子の声が聞こえたけど、完全にシカトする。
小鳥遊の話に付き合ってる暇なんか、こっちにはないって。
殺戮魔術と敵対してる以上、命の保証はない。
最高級の魔術師が命を懸けて鎮めた魔術だから、僕たちじゃ歯が立つ事はない。
そして恐れていた事態が、起こった。
「……っ!」
今まで攻撃してこなかった殺戮魔術が突然、攻撃を当ててきた。
クリティカルヒットと言える軌道で黒い何かが飛んできて、守護する余裕もなくなる。
窓枠から落ちてしまったけど、浮遊魔術も持っているから心配はない。
こっちのほうが絶対、攻撃しやすいな……。
新たな発見を呑気にしながらも、喝を入れ直して攻撃を再開する。
さっきの攻撃でみんな、大分体力が削られた。
僕が前線で戦ってるとはいえ、みんなにも多大な魔力を使わせてしまっている。
他のZenith会員は大した魔力も持ってないから、あてになんかならない。邪魔になるだけ。
さっきの攻撃で大きな風が吹き、体制も崩れさせられた。
……っ、あっぶな……。
こんなヘマしてる場合なんかじゃないのに……。
僕がこうやってヘマしてる間にも、殺戮魔術は崩壊の準備を始めている。
それだけは、何としても止めないと。
「……?」
だけどさっきから、殺戮魔術の動きがおかしい。
ついさっきまでは狂ったように渦巻いていたのに、今は黒い塊と化していて動く気配がない。
嫌な冷や汗が頬を伝い、気を紛らわせるように下唇を噛み締める。
その瞬間、ぐいっと殺戮魔術の動きが再開され出した。
来るかっ……!?
もしかしたらもう一度攻撃が来ると思って構えた……その時だった。
「私の魔力を狙っているんでしょう?だからこれ以上、他の人を傷つけないでください。」
ざわざわとしているのにも関わらず、澄んだ声が聞こえてくる。
その声には……聞き覚えがありすぎた。
それと同時に中央棟に現れた人影に、僕は今までにないほどの恐怖を覚えた。
「……かん、な……?」
中央棟……つまり殺戮魔術の前に現れた人物。
それは――地味子姿のままの、神菜だった。
辺りがざわざわと騒然としている中、私はどうしようかと悩んでいた。
あの殺戮魔術は、きっと意図的に召喚されたもの。
そしてあれを収める方法は、大量の魔力を与える事。ただそれだけ。
質の良い魔力を求めながら、世界を破壊して回る最悪な魔術だ。
かつて一度、殺戮魔術が召喚された事があった。
その時に騒動を収めたのが、世界で最強だと謳われていた魔術師。
その魔術師が体内の魔力を全て殺戮魔術に捧げた事で、騒動は収まった。
……つまり、同じ事をしなければ鎮静化は図れない。
それしかもう、対処法が残ってないから。
本当ならば私が魔術師として動かなければいけない。
……なのに、体が思うように動いてくれない。
もしここで魔術師だという事がバレたら、どうなっちゃうの?
もちろん、ここでの生活はもうできなくなる。
それは嫌。だけど、動かなければ世界が壊される。
そうやって私が悩んでいる間にも、周りはこれでもかというほど騒いでいた。
「どうすんだよあれ!殺戮魔術らしいぜ!」
「じゃああたしたち、殺されちゃうの!?」
「今来栖様や天会長が動いてるらしいけど、全く収まってないみたい……。」
風羽さんたちまで……?
そんな声が聞こえてきて、意識が揺らぐ。
皆さんに大きな被害が出る前に、何とかしないといけない。
でも本当に、私が勝手に動いていいの?
悩んでいる暇はないというのに、余計に考え込んでしまう。
だけど同じようなタイミングで、大きな風が辺りに巻き上がった。
下手したら宙に浮いてしまいそうなほど威力が強い風で、こけかけそうになる。
あの殺戮魔術が、攻撃を始めた……?
……ううん、違う。
「……狙ってきてるんだ。」
――あの殺戮魔術は、私を狙ってきている。
私が多大かつ良質な魔力を持っているって、バレたんだ。
その証拠にさっきから、私の周りばかりに風が吹いている。
当たりが強くて痛くて、気を抜いたら泣いちゃいそうだ。
……でも私を狙ってるって事は、私が行けば収まるのかな?
私が生贄になってくれば、平和になるのかな?
『あんたなんかいなければ、良かったのに……っ!』
……あはは、そうだよね。
私が、行かなきゃいけない。
「私が何とかしないと……正体がバレても、魔術師として動かなきゃダメ。」
自分に言い聞かせるように呟いて、息を整える。
そうだよ。私は元々ここに任務で編入した。
だからこそ……“魔術師”として動かないと。
もうバレるとか、余計な事を考えないように。
窓枠に立って、中央棟までテレポートしようと魔力を使う。
「おい……栞、何やって……っ!」
「しーちゃんっ!?」
「落ちちゃうよっ……!栞、降りてっ……!」
後ろでみんなが止めようと、声をかけてくれる。
周りも私の行動にざわつき始めて、私に視線が一気に集中した。
隠れて動いても良かった。
でもみんなを守れるのなら……バレてもいい。
もう逃げ道は……残されていない。
「みんな、今までありがとう。」
私は後ろを振り返って、精一杯の笑顔を浮かべた。
死ぬかもしれない。いや、死ぬ確率のほうが高い。
……だけど、どうこう言ってる場合じゃないのは分かっている。
――それでも、もう決めたから。
一気に魔力を消費し、テレポートで中央棟まで移動する。
久々に魔術を使うから、腕が鈍ってなきゃいいけど……。
「私の魔力を狙っているんでしょう?だからこれ以上、他の人を傷つけないでください。」
私は今から、魔術師だ。
誰が何といおうと、普通の人間には戻れない。
理解した上で動いているんだから、悔いはないけど。
私の声に反応した殺戮魔術は大きく動き、風邪を吹き散らしてくる。
それと同時に私は、自ら変装を解いた。
変装しながらは流石に邪魔だし、魔術を使うからもうバレている。
案の定、生徒さんたちは私の姿に大きく驚いていた。
「あの地味子、元宮神菜だったのかっ……!?」
「世界中で飛び回ってるって聞いたけど、まさかこの学園にいたなんて……!」
「なぁ、俺らって元宮神菜をいじめてたって事だよな……!?」
口々に何かを言っている生徒さんたちだけど、気にしている暇は残っていない。
タイムリミットも、もう過ぎている。
……早めに片付けなきゃ。
変装セットを使い魔に預け、私は魔術を発動させる。
動いていた風羽さんたちは、さっき一瞬様子を見たけどかなりの重傷だった。
だから回復魔術と治癒魔術を併用して、今休んでもらっているところ。
ここからは私が、決着をつける。
この殺戮魔術の弱点は、渦の中にある核だ。
魔力を流すしか倒す方法はないけど、被害を少なくするには早めに核に魔力を流す必要がある。
……よし。
この渦の中に入ったら、無事に戻れる方法はない。
だけどみんなを危険に晒すくらいなら、私一人でいい。
私は自分自身をそう励ましながら、覚悟を決めて渦の中へと飛び込んだ。
流石渦の中、真っ黒だ……。
中に入ってから第一の感想は、率直に思った事だった。
呑気にできる場合じゃないけど、少しだけ観察をする。
「核って……あれ、だよね。」
そしてやっと……核を見つけることができた。
七色に光っている宝石みたいなもので、両手サイズの大きさ。
意外と核は大きくないんだ……。
これだけ大きな殺戮魔術なんだったら、もう少し大きいと思ってたのに……。
そう思いながらもゆっくり、その核に触れる。
「痛っ……。」
その瞬間に電流がバチッと思いっきり走り、思わず顔を歪める。
結構厳重に管理されてる……でも、ここで引くわけにはいかない。
私は強引に核を両手に収め、自分の中にあるありったけの魔力を流す。
イメージしながら核へと流す度に、脱力感に襲われる。
意識が、はっきりしない……。
私の体は魔力がないとバランスが保てないようになっているから、魔力がなくなると当然しんどくなる。
それでも屈せずに、これでもかと流し込める。
このまま魔力を流していったら、上手い具合に核が破壊されるはず。
それを望んで、自分の体が警告をしているのにも関わらずに魔力流しを続ける。
渦の中に入っているせいで、風が体のいたるところに当たる。
風圧も強いから、ところどころが掠り始めた。
痛いけど……これくらい、何ともない……。
風羽さんや天さんたちは、私が決断するまで粘ってくれた。戦ってくれた。