ある日、社長のお供で外出してそのまま外でランチをすることになり、自分では絶対に入らない、ちょっといい店の高級ランチに舌鼓を打っていたら、突然社長が
「もうちょっと身なりをなんとかできないのか?」
と失礼なことを言ってきた。
まあ確かに、リクルートスーツに毛が生えたレベルのスーツ3着を着回す日々なので、ぐうの音も出ない指摘ではある。
とは言っても、私にだって言い分はある。
「新卒の給料で、関西勤務が続いているから一人暮らしの生活費を捻出しつつ、例え安物でも3着もスーツを新調した私は、むしろ賞賛されるべきだと思います」
と胸を張って主張したところ、社長から無言の真顔を返された。
ええ~?そのリアクション、なんか酷くな~い?
微妙な空気になり多少気まずいランチとなってしまったが、秘書になって早3ヶ月、社長あるあるなので気にしない。
*
その翌日、社長から大きな荷物を渡された。
「外出のある日に使うように」
そう言われて中身を確認すると、落ち着いた色の素敵なワンピース数着と靴とバッグが入っていた。
よくわからないけど、これはきっと高いやつだ、間違いない。
これは貰っていいやつなのか?
判断に困ったのでそんな時は迷わず部長に相談。
私の話を聞いた部長は、驚いたような表情を見せ、少し考えた後、心なしかにやついて、
「別にいい、貰っとけ」
とだけ言って、仕事に戻ってしまった。
なんか今、悪いこと考えた?
うーん、でも部長がいいと言うなら、まあいっか。
午前中に外出予定があったので、更衣室に行って着替えを済ませた。
靴のサイズは合わなかったのでそのまま自分の靴を履いたが、ワンピースはピッタリで、我ながらよく似合っていた。
社長室に戻ると、素敵ワンピースを纏って再登場した私を見て社長が満足そうに頷いたので、服のお礼を言って外出の準備を始めた。
その日もちょっといい店のランチをご馳走になり、二日連続でこんな美味しいものを食べられるなんて、秘書って最高だな!と思った。
*
帰社後、自分のスーツに着替えてから社長室に戻ると、意味がわからないと言わんばかりの表情を社長から向けられた。
いや、だって、あんないい服、自前じゃないのもろバレじゃん?
社内には女性社員が多数いるわけで、そうじゃなくても秘書な私は異分子扱いなのに、社長から服を買って貰ってこれ見よがしにそれを着てたら、袋叩きにあっちゃうかもしれないじゃん?
仕事のためとは言え、営業の人達にわかりやすく媚びを売ってた自覚のある私は、これ以上目立つ行為をしたくないのだ。
実際、私と仕事以外で話してくれる女子は、営業採用の同期だけになっていた。
だから!あの素敵ワンピースは外出用なの!社内では絶対に着たくないんです!
と心の中で叫び、社長の視線を無視し続けた。
*
数日後、来客の対応をしてから自席で書類の作成をしていたら、商談を終えて戻ってきた社長がいきなり凄い剣幕で怒鳴りつけてきた。
「秘書ならそんな格好で客の前に出るなと何度言わせたらわかるんだ!俺に恥をかかせるな!今すぐ着替えて来い!」
社長室のドアは開いていて、社長の怒鳴り声がフロア中に響き渡った。
成人男性の本気の怒鳴り声は、涙目になる程恐ろしいものだった。
急いで更衣室に向かい社長に用意してもらったワンピースに着替えたが、震えが止まるまでには暫く時間を要した。
明らかに怯えている様子の私を心配して、女性の先輩が更衣室まで声を掛けに来てくれた。
思いがけず優しい言葉を掛けられて、我慢していた涙がポロポロ零れてしまった。
涙を拭いて社長室に戻ると、予定外の外出に付いてくるように言われ、慌てて社長の後を追った。
*
外出先は高級ブランドを扱うセレクトショップで、前回サイズが合わなかった靴と、素敵ワンピースが更に数着買い足されることとなった。
社長が選ぶワンピースはどれも似た感じのもので、こういうのが好みなのかな?と不思議に思っていたら、
「これなら毎日着てても何着もあるとは気付かれないだろ」
と言われ、想像もしていなかった気遣いに驚いたし、女は微妙な違いがあればすぐに気付くだろうなとは思ったけど、それは黙っていた。
そして買い物の後、
「さっきは怒鳴って悪かった」
と謝られ、お詫びにと高級鉄板焼をご馳走になった。
バターで焼いた鮑にレモンを垂らしただけで、こんなにも幸福を感じることができるなんて思ってもみなかったし、苦手だと思っていたアスパラガスに感動させられる日が来るなんて本当衝撃だった。
世の中は私の知らない美味しいもので溢れていると思いしったし、やっぱり秘書は最高だなと思った。
*
ちなみに、この事件をきっかけに女性社員が同情的になり、仲良くなる程ではなくても、これまでのような居心地の悪さはなくなった。
もしかしなくても、社長が私を怒鳴りつけたのは、このためだったのだろう。
新入社員の女の子を頭ごなしに怒鳴りつけたことで、社長は女性社員からの評判を著しく低下させてしまった。
不器用な社長らしいやり方ではあるが、効果はてきめんだった。
社長にはなんのメリットもないというのに、本当にいい人だと思う。
「もうちょっと身なりをなんとかできないのか?」
と失礼なことを言ってきた。
まあ確かに、リクルートスーツに毛が生えたレベルのスーツ3着を着回す日々なので、ぐうの音も出ない指摘ではある。
とは言っても、私にだって言い分はある。
「新卒の給料で、関西勤務が続いているから一人暮らしの生活費を捻出しつつ、例え安物でも3着もスーツを新調した私は、むしろ賞賛されるべきだと思います」
と胸を張って主張したところ、社長から無言の真顔を返された。
ええ~?そのリアクション、なんか酷くな~い?
微妙な空気になり多少気まずいランチとなってしまったが、秘書になって早3ヶ月、社長あるあるなので気にしない。
*
その翌日、社長から大きな荷物を渡された。
「外出のある日に使うように」
そう言われて中身を確認すると、落ち着いた色の素敵なワンピース数着と靴とバッグが入っていた。
よくわからないけど、これはきっと高いやつだ、間違いない。
これは貰っていいやつなのか?
判断に困ったのでそんな時は迷わず部長に相談。
私の話を聞いた部長は、驚いたような表情を見せ、少し考えた後、心なしかにやついて、
「別にいい、貰っとけ」
とだけ言って、仕事に戻ってしまった。
なんか今、悪いこと考えた?
うーん、でも部長がいいと言うなら、まあいっか。
午前中に外出予定があったので、更衣室に行って着替えを済ませた。
靴のサイズは合わなかったのでそのまま自分の靴を履いたが、ワンピースはピッタリで、我ながらよく似合っていた。
社長室に戻ると、素敵ワンピースを纏って再登場した私を見て社長が満足そうに頷いたので、服のお礼を言って外出の準備を始めた。
その日もちょっといい店のランチをご馳走になり、二日連続でこんな美味しいものを食べられるなんて、秘書って最高だな!と思った。
*
帰社後、自分のスーツに着替えてから社長室に戻ると、意味がわからないと言わんばかりの表情を社長から向けられた。
いや、だって、あんないい服、自前じゃないのもろバレじゃん?
社内には女性社員が多数いるわけで、そうじゃなくても秘書な私は異分子扱いなのに、社長から服を買って貰ってこれ見よがしにそれを着てたら、袋叩きにあっちゃうかもしれないじゃん?
仕事のためとは言え、営業の人達にわかりやすく媚びを売ってた自覚のある私は、これ以上目立つ行為をしたくないのだ。
実際、私と仕事以外で話してくれる女子は、営業採用の同期だけになっていた。
だから!あの素敵ワンピースは外出用なの!社内では絶対に着たくないんです!
と心の中で叫び、社長の視線を無視し続けた。
*
数日後、来客の対応をしてから自席で書類の作成をしていたら、商談を終えて戻ってきた社長がいきなり凄い剣幕で怒鳴りつけてきた。
「秘書ならそんな格好で客の前に出るなと何度言わせたらわかるんだ!俺に恥をかかせるな!今すぐ着替えて来い!」
社長室のドアは開いていて、社長の怒鳴り声がフロア中に響き渡った。
成人男性の本気の怒鳴り声は、涙目になる程恐ろしいものだった。
急いで更衣室に向かい社長に用意してもらったワンピースに着替えたが、震えが止まるまでには暫く時間を要した。
明らかに怯えている様子の私を心配して、女性の先輩が更衣室まで声を掛けに来てくれた。
思いがけず優しい言葉を掛けられて、我慢していた涙がポロポロ零れてしまった。
涙を拭いて社長室に戻ると、予定外の外出に付いてくるように言われ、慌てて社長の後を追った。
*
外出先は高級ブランドを扱うセレクトショップで、前回サイズが合わなかった靴と、素敵ワンピースが更に数着買い足されることとなった。
社長が選ぶワンピースはどれも似た感じのもので、こういうのが好みなのかな?と不思議に思っていたら、
「これなら毎日着てても何着もあるとは気付かれないだろ」
と言われ、想像もしていなかった気遣いに驚いたし、女は微妙な違いがあればすぐに気付くだろうなとは思ったけど、それは黙っていた。
そして買い物の後、
「さっきは怒鳴って悪かった」
と謝られ、お詫びにと高級鉄板焼をご馳走になった。
バターで焼いた鮑にレモンを垂らしただけで、こんなにも幸福を感じることができるなんて思ってもみなかったし、苦手だと思っていたアスパラガスに感動させられる日が来るなんて本当衝撃だった。
世の中は私の知らない美味しいもので溢れていると思いしったし、やっぱり秘書は最高だなと思った。
*
ちなみに、この事件をきっかけに女性社員が同情的になり、仲良くなる程ではなくても、これまでのような居心地の悪さはなくなった。
もしかしなくても、社長が私を怒鳴りつけたのは、このためだったのだろう。
新入社員の女の子を頭ごなしに怒鳴りつけたことで、社長は女性社員からの評判を著しく低下させてしまった。
不器用な社長らしいやり方ではあるが、効果はてきめんだった。
社長にはなんのメリットもないというのに、本当にいい人だと思う。