やはり彼女は断るつもりで気持ちを固めているようだ。

意識してくれるのは嬉しいが、俺が視界に入る度に申し訳なさそうな顔をされる。

これでは、既に断られてるのと一緒だ。

だが、申し訳ないと思うってことは嫌いじゃないってことだ。

可能性はゼロではない。

母からの嫌がらせ電話が続いているのが邪魔くさいし、そのせいで俺と彼女の変な噂が出回り始めた。

少しでも彼女からの好感度を上げておきたいのに、この感じだとあまり時間がないだろう。

正攻法で落としたかったのだが、奥の手を使うしかないかもしれない。

確実ではないし、できればこの方法は避けたかったんだが、しょうがない。

とりあえず落としてから、ゆっくり俺のことを好きになってもらおう。



俺への返事を社長室で簡単に済ませようとする彼女に、

「昼に時間を作るから、食事を取りながら話を聞く」

と、かろうじてストップをかけた。

本当に危なかった、あっさり終了するところだった。

彼女は話の持っていき方が本当にうまい、営業でも十分通用したことだろう。

これは心してかからなければ、奥の手が通用しない可能性を感じる。

とりあえず、彼女が涙目になる程感動していた蟹味噌パスタの店で、個室の予約を取った。

美味しい料理で脳を揺さぶり、判断能力を下げることができれば、俺が有利になる、、かもしれない。



俺の選択は間違っていなかった。

やはりこの店はいい仕事をする。

本日のパスタはフレッシュポルチーニを贅沢に使ったクリームパスタだった。

彼女は運ばれてきたポルチーニの香りにうっとりした後、優しくそれでいて濃厚なクリームソースの素晴らしい味わいに気を失いかけていた。

やるなら今しかない。

「で?この前の話の続きだったよな?」

彼女がパスタを口に運び、悶絶してるのを確認してから話を振った。

想像通り、彼女は断りの言葉を並べ立てた。

「母のことがなければ考え直せるのだろうか、そのつもりがあるならすぐに手を打つから全く問題ない、気にするな」

彼女の断りの言葉を絶妙に無視、問題をすり替えて、なおかつ回答する隙を与えない。

ポルチーニ効果も相まって、彼女は完全に混乱の極みに達している。

ここで、奥の手発動。

「俺はお前のことが好きだと言っている。お前は俺のことが嫌いなのか?」

ここで嫌いと言われたら終了だ。

頼む、深く考えるな、お前は絶対に俺のことを嫌っていないはずだ。

混乱しながらも、彼女が首を振る。

テーブルの下で、俺は拳を握った。

「じゃあ、お前は俺のことが、好きか嫌いかならどっちだ?」

「好き?」

俺は勝負に勝った。

後はゆっくり落ちてくればいい。