商談を終えて客を見送り、ある意味今日はここからが本番だ。

女どもを震え上がらせて彼女が被害者であると印象付けられれば成功だが、失敗すれば無駄に彼女を怖がらせて終わるという最悪な終着点となる。

来客がいないことを確認、深呼吸して、よし!やるぞ!

怒りのオーラを身に纏い、大股でガツガツ歩き、社長室のドアをバン!と乱暴に開け、その場で彼女を睨み付ける。

戸惑った表情の彼女、折れそうな心を奮い立たせる。

「秘書ならそんな格好で客の前に出るなと何度言わせたらわかるんだ!俺に恥をかかせるな!今すぐ着替えて来い!」

突然俺に怒鳴られて、ほぼ泣いていると言っていい状態の彼女は、震える声で謝罪の言葉を口にして、小走りで更衣室へと消えて行った。

あーむかつく、止めを刺そう。

クルッと振り返り、驚いた様子で俺に注目している馬鹿な女どもを威圧する。

「なにボーッとしてんだ!!さっさと仕事しろ!!」

うん、さっきと違って、本気で怒鳴れたわ。

さっきよりも激しい音を立ててドアを閉め、ついでにデスクの上に置きっぱなしになっていたマグカップを床に叩きつけてやった。

そして、給湯室で陰口を言ってた女のひとりを、閉めきった部屋の中から大声で呼びつける。

怯えた様子で入ってきた女を、冷たく睨み付け、粉々になったマグカップを顎で指し示した。

「片付けとけ」

これで十分か?まだ足りない?

雑誌を手に取り、少しペラペラした後、わざと音が鳴るように、激しく机に戻す。

片付けをしている女がビクッとしたので、よし。

15分程経っただろうか、目の周りを赤く腫らした彼女が戻ってきた。

もう俺の顔なんて見たくもないだろうけど、今日はとことん被害者になってもらわないといけないんだ。

だってこんな最悪な男と二人で外出とか、最低でしょ?

みんなは俺が外出してホッとできるのに、彼女だけかわいそうだよね?

ほら、同情してあげて?



彼女を連れ出すことが目的で、特に予定はなかったので、せっかくだから服を買い足すことにした。

渡した靴を履いてないから多分サイズが合わなかったのだろうし、もうすぐ夏も終わるから丁度いい。

あれだけやったのだから服のことで文句を言う奴はさすがにいないと思うが、給湯室から聞こえてきたあの会話が脳裏をよぎった。

念のため、色も形も似たようなデザインのものを選んで彼女に薦める。

本当はもっと着飾らせてやりたいのだが、俺の自己満足のために彼女が辛い思いをするのは本望ではない。

買い物を終えて荷物を車に入れてる時に、彼女に謝った。

許してもらえるとは思えないが、謝らずにはいられなかった。

お詫びに食事をご馳走させて欲しいとお願いすると、優しい彼女が受け入れてくれた。

海鮮が美味しく食べられる鉄板焼の店を選んでみたけれど、彼女が満足そうな顔をしているので、きっと正解だったのだろう、良かった。



その後ギクシャクするのを覚悟していたが、翌日からまるで何もなかったかのように、彼女は普通に俺に接してきた。

いや、普通というより、これまでより親しみを感じる。

彼女は俺の意図を察してくれたのだろうか。

良かった、本当に良かった。

これで、俺の選んだ服を着た綺麗な彼女を気兼ねなくずっと見ていられるようになった。

最高に気分がいい。

よし、彼女に美味しいものを食べさせてあげるための計画を練ろう。

そうだ、東京出張に同行させるのもアリだな。

彼女のおかげで仕事がはかどる。