彼女が俺に笑顔で話し掛けてくるようになった。

お土産で貰った風を装って、美味しいお菓子をちょくちょく渡していたのが効いたのかもしれない。

熱心に勉強する姿も凛々しくていいのだが、やはり美味しいものを口に入れて蕩けるような表情をしている彼女が最高なのだ。

そろそろまた食事に誘ってもいいだろうかと考えていたら、どうも最近様子がおかしい。

頻繁に営業部長と話しているのを見かけるようになったのだ。

昼時にいないと思っていたら、部長と戻ってくることも何度かあった。

まさか一緒に昼食をとってる?

「最近営業部長とよく話してるようだが、何かあったのか?」

耐えきれず、直接彼女に聞いてしまった。

「会社のこととか色々教えてもらってるだけですよ」

わからないことがあったら何でも聞けと言ったのに。

パソコンのことも自分で調べて、俺には何も聞いてこなかったのに。

じじい、、許せん。

心なしかじじいが俺への当てつけで彼女をかわいがってるようにも思える、、本当解せん。

ふと気付くと、彼女は、じじいの他にも営業の何人かと親しげに話すようになっていた。

枯れ専ってやつなのか?

俺は若過ぎるから駄目なのか?

休憩室で営業のやつと何やら盛り上がって楽しそうに話している彼女を見掛けて悶々としていたら、珍しくじじいの方から話し掛けてきた。

「あの子、お前のために俺ら営業に顔繋ぎしてんだよ、かわいいよな、大事にしてやれよ?」

ナンダト?オレノタメ?



献身的な彼女のサポートに感動した俺は、さりげなくお礼をしたいと考えていた。

直接食事に誘ってもいいかもしれないが、遠慮されても困るので、外出に同行させて、その流れで一緒に食事がスマートだろう。

丁度いい商談の予定は、、この日だから、、場所は、、ここなら確かオムライスが有名なフレンチレストランがあったな、、ランチなら彼女も気兼ねしないで済むだろうし、、うん、完璧だ。

あとは、負い目を感じさせずにプレゼントを受け取らせるには、どうすればいいのか、、これはさすがに難しいか。

うーーーん。

「もうちょっと身なりをどうにかできないのか?」

あ、間違えた、絶対間違えた。

芸術品と呼ぶにふさわしい蕩けるような卵と深みのある味わいのデミグラスソースが絶妙に絡んだ素晴らしいオムライスで幸せいっぱいといった表情をしていた彼女が、一気に真顔になった。

この後、服を一緒に買いに行ければと思ってたが、これは絶対無理な感じだな、うん、絶対無理だ、失敗した。



しょうがなく、仕事が終わってからひとりで買い物に行った。

彼女と似た体型の店員がいる店を選んで、彼女の代わりに試着してもらう。

彼女に似合いそうな清楚な感じのワンピースを数着購入。

服に合う靴とバッグを適当に選んでもらい、一緒に包んでもらった。

果たして彼女は受け取ってくれるのだろうか。



「外出のある日に使うように」

翌日、業務命令っぽくなるよう意識して、服の入った大きな袋を彼女に渡した。

少し困惑した様子だったが、しばらくしたら、俺の選んだワンピースを着た彼女が戻ってきた。

ああ、絶対似合うと思ったんだ。

やはり彼女は美しい。

俺は彼女のことが好きだ。

昨日の食事をやり直したくて、今日は天丼の老舗を予約した。

サクッとした極上の天婦羅に歴史を感じる濃厚なタレが染み込む、間違いなく美味しい天丼。

思った通り、彼女は最高に蕩けた表情を俺に見せてくれた。

彼女が幸せなら、俺は満腹だ。



幸せを噛み締めながら書類の確認をしていたら、いつものスーツに着替えた彼女が部屋に戻ってきた。

え?何でわざわざ着替えた?

口に出さずとも俺の疑問は届いたはずだが、あくまで無視を決め込むつもりなのか、彼女は頑なに目をそらし続けた。

意味がわからない。

あの服が気に入らなかったのか?

趣味じゃないけど、俺に言われてしょうがなく着ていた?

だとしたら、今後外出する度に、彼女は嫌々俺の選んだ服を着る羽目になるというのか?

休憩室で頭を抱えていたら、すぐそばの給湯室から女子社員の声が聞こえてきた。

「ねー!今朝の見た?あのワンピース!やたらと高そうだったけど絶対社長に買って貰ったんだよね?」

「そーそー!本当いいご身分だよねえ?マジでどうやって社長に取り入ったんだかわかったもんじゃないよね?」

「そんなん体使ってるに決まってるじゃーん!営業の人達全員彼女のお手付きだってもっぱらの噂だし?」

「本当きもーい!やめてー!」

キャーキャー言いながら彼女達は去って行った。

今のはなんだ?彼女は女子社員から嫌われているのか?なんで?

「お前、気付いてなかったの?」

じじいの声に驚いて振り返る。

「お前みたいないい男が社長で、その秘書ってだけでも十分女の敵になっちゃうのにさ、あの子、営業に顔繋ぐために露骨に媚び売ってたからね、もうだいぶ前から散々陰口言われちゃってるよ?」

それって、全部俺のせい?

「でもあの服、似合ってたし、いい仕事したよな!お前!」

ヘラヘラ笑うじじいは、多分俺を励ましてくれているのだろう。

俺は、どうしたら彼女を助けられるのか、必死で考えていた。