和田、と呼ばれた人は、むすっと不機嫌そうな顔をしていた。

優しい雰囲気を醸し出す彼とは正反対の一重まぶたが印象的な、ちょっと怖そうな人。

この人は大人みたいに声が低くて、身長なんかわたしより頭ひとつ分以上も大きい。


星野(ほしの)の荷物も持たなきゃなんねーじゃん、重てえし普通に嫌だ」

「お前なあ…、じゃあ荷物ここで見ててよ」

「は? おい、待てよ!」


和田って人の文句を右から左へ流した彼は、行こうかってわたしに声をかけてゆっくり歩き始める

星野…って、きっと彼のことだよね、


星野、聖也。

ちらっと顔を盗み見る。


うん、彼にぴったりな名前。

思わず見惚れていると、バチッと視線が混じり合い、慌てて目を逸らす。


「長沼さんって二組だっけ」

「へ、あ、そうです」

「あはは、さっきから思ってたけどなんで敬語?」


あなたが野球部だからです…とは言えず、言葉に詰まって笑いで誤魔化す。

でも、そうだ、さっきの野球部員に向かって“先輩”と呼んでいたということは、同級生だ。


…え、てことは、あの和田って人も同級生?

彼、星野くん…、和田って人に敬語使ってなかった。


野球部の中でも背が大きかったから勝手に先輩だと思った…。