カンペキに心が折れて涙があふれるそのときだった。


長沼(ながぬま)さん、大丈夫?」


すぐ目の前から聞こえた、優しくて少しかすれた声にパッと顔をあげる



……その瞬間、わたしは理解した。


ああ、これが一目惚れってやつなんだろうって。


二重の綺麗な瞳、高くて筋の通った鼻、まるでモデルさんのように端正な顔立ちのその男の子は、わたしと目線を合わせるようにしゃがんで手を差し伸べてくれていた。

野球部の練習着の男の子。


「なに聖也(せいや)、そいつ知りあい?」


ニヤニヤといや〜な感じの笑みを浮かべた先輩らしき人がからかうようにたずねてくる。

でもわたしは、目の前の“聖也”と呼ばれた彼に釘付けでなんの反応もできない。


「先輩、コーチが探してましたよ、話があるって伝えてくれって言われました」

「ゲッ、俺帰るわ、コーチにはいなかったってことにしとけよ!」


コーチ、と聞いた瞬間、バツの悪そうな顔をしてそそくさと帰っていくその先輩を追うように、他の野球部の人もいなくなる。


話があるって言っただけなのにあの反応ってことは、またよからぬことでもしたのかな。

頭の片隅でそう思いながらも、視線は彼を捉えたままそらせない。