「来たよ、池崎正人くん」

「いたのか」

 クリップボードを持った銀縁メガネの男子生徒が正人に徽章リボンを差し出した。

「付けて。早く」

 正人がもたついていると、ここまで連れてきてくれた髪の長い女子生徒が制服の左胸にその徽章を付けてくれた。

「君は一年一組だよ。席は一番左端の列で来賓席の真ん前」

 きゅっと徽章の向きを整えてから、彼女はにんまり微笑んで正人の背を押し出した。

「目立っちゃうね。ご愁傷様」

 観音開きの扉を少し開けながら、銀縁メガネの男子生徒が厳しい面持ちで「早く行け」と正人に向って目配せした。





 青陵学院は、中等部と高等部を擁する私立の進学校である。

 創立されてから十年足らずと歴史はまだ浅い。この地域の古くからの名門校である西城学園と『西の西城・東の青陵』と並び称される所以だ。

 並外れた進学率とそこそこの実績で地域の衆目を集めているが、その神髄は極めて高い生徒たちの自治力にある。「克己復礼」を教育理念に掲げ、「清く正しく美しく」をモットーに自立心あふれる生徒たちが傍若無人に活躍する。

 大いなる可能性にあふれる…………要するに、異彩を放つ学校なのである。





『ただいまより、生徒会入会式を執り行います。一年生は速やかに体育館にお集まりください。繰り返します。ただいまより……』

 アナウンスを聞くともなしに聞きながら、池崎正人は人の流れに沿って体育館へと移動していた。その間にも何度も何度もあくびをかみ殺す。

 入学式の翌日。昨日の今日だから今朝は死ぬ気で早起きした。おかげで昼下がりの今は眠くて眠くて仕方ない。

(帰りたい)

 生徒会入会式とやらの後には部活紹介が続くらしい。

 体育館に入ったところで我慢できずに特大のあくびがひとつ。涙まで出てきてしまう。

「おい、三大巨頭だ」

 正人の前を歩いていた男子生徒たちが囁き合っていた。

「すっげー迫力」

 彼らの目線の先、舞台の端に昨日の髪の長い女子生徒と銀縁メガネの男子生徒がいた。それと知らない男子生徒がもう一人。

 三大巨頭って? 訊いてみようかと思ったが。

「池崎」
 後ろから肩を叩かれ、できなかった。振り返ると、見覚えがあるが名前がわからない顔がふたつ。