「ミリュエール・フォン・エストアール」


アスター王子のよく通る凛とした声が、わたしを呼ぶ。
身体の芯から反応して、背筋が伸びた。

「はい!」

踵を揃えた姿勢で勢いよく返事をし、彼を真っ直ぐに見据える。上司として、王太子として真面目な顔をしたアスター王子は、わたしへフッと口元を緩める。

「よく、ここまで来た」

彼の、万感の想いが籠もったひと言だった。
たったひと言。それだけで、彼がどれだけこの優勝を我が事のように喜んでくれたか……がわかる。
それだけに、じいん、と胸にしみた。

馬上槍試合の優勝者には、勲章が授与される。しかも、王太子殿下や陛下自らの御手で、胸に直接着けられるんだ。

それは、騎士として最高の栄誉。

アスター王子自らの手で勲章を胸に付けられた瞬間、周囲から盛大な拍手と歓声が湧き上がる。

おめでとう!と見知らぬ方々からもお祝いの言葉をかけてもらえて、騎士を目指してよかった……と、心の底から思えた。

わたしたちが歩いてきた道は、無駄じゃない。これから目指す後輩たちのためにも、きっと道しるべになるのだ……と。