(アスター王子……ピッツァさん、頑張って!)

再び対戦する十数秒が、これだけ長く感じることはなかった。自分自身が参加している時は、無我夢中であっという間に感じていたけど。

リズミカルに駆けた馬上で、落ち着いた2人は再び相対する。周囲の観客も固唾を呑んで見守っているからか、シンと静まり返っていた。それゆえ、ピンと張り詰めた緊張が2人と2頭の立てる音以外を許さない。

ドクドクと心臓の音が高まり、呼吸すら忘れそうになる。

(あ……アスター王子、ランスチャージを繰り出すつもりだ)

わたしが散々見慣れた動き……流麗、かつ鋭いランスチャージがアスター王子により繰り出された。予備動作がほとんどない、予想が難しい一撃。並の騎士ならばそのまま受けてしまうだろうけど、さすが同僚で悪友のピッツァさんは、そのままランスを盾にして受けた……だけじゃない。

彼女は、アスター王子のランスを激しく弾き飛ばした。それこそパワーあふれる反撃。ピッツァさんらしい力技だ。

そして、なぜか彼女がニヤリと笑ったのがわかった気がした。

次のターン。ピッツァさんはストレートにアスター王子のランスを狙う。しつこく何度も。それでも決着は着かずアスター王子のターンで、予想外の事態が起きた。

アスター王子のランスチャージを受けたピッツァさんが同じように自分のランスで彼のランスを激しく弾き飛ばした瞬間……アスター王子のランスの穂先が折れた。