ピッツァさんはものすごいパワーで、あっという間に対戦相手を落馬させる。“サクッと勝つ”の宣言通りに、ワンターンで勝負を決めた。

これで、彼女も7戦全勝。

次の決勝戦では、アスター王子とピッツァさんが対戦する。

わたしはあえて、どちらのテントにも激励に行かなかった。

女性として、騎士の後輩としてはピッツァさんに勝って欲しい。彼女の言った“女性でも騎士はやれる”という言葉を体現するためにも。

でも、やっぱり……婚約者であり、上司でもあるアスター王子にも勝って欲しい気持ちもある。恋する人が栄誉に輝いて欲しい。彼の努力も知っているから。

勝負は公平で、勝っても負けても一度きりの対戦で終わり。

どちらも応援したいし、どちらも負けて欲しくはない。

こんな複雑な決まりきらない気持ちでは、純粋に応援なんて行けやしない。相手に失礼だろう。

だからわたしはあえて公平な気持ちで、観客席で観戦するに留めておいた。どちらも頑張って、怪我が無いように祈りながら。

馬上槍試合決勝戦。

この国一番の騎士を決めるだけあり、渦巻く熱気と歓声で盛り上がるなか、対戦する2人が愛馬に跨り姿を現わすと、観客席のムードが最高潮に達した。

(どうか……どちらも無事で!)

祈るような気持ちで見守る中、勝負のスタートを告げる笛の音が鳴り響いた。