「ミリィ、おめでとう。見事に優勝したな」

お祝いを言ってくださったアスター王子はすでにフルプレートアーマーに身を包み、兜を脇に抱えていた。次に騎士による馬上槍試合が始まり、アスター王子も出場するからだ。

ちなみに、お父様は審判があるので試合には出場しない。国王陛下等の高貴な方々の警護や会場の警備、審判役があるので、ベテランの騎士はあまり出場しない。なので、馬上槍試合に出場する騎士は大抵二十歳前後の若手だ。

「ありがとうございます、アスター王子。あなたの厳しいご指導のお陰です」

わたしが胸に手を当てて軽くお辞儀をする。騎士による謝意の表れ。無闇に頭を下げるのは良くないけど、王太子殿下である彼だから、問題はないだろう。

「いや……おまえはよく努力をしていた。誰よりも早く起きて馬の世話をし、従騎士の仕事もしながらさらに自身を高める努力を怠らなかった。その姿に触発され、刺激を受けた他の従騎士も鍛錬を増やし…結果、従騎士全体のレベルがかつてないほど上がっている」
「……そうなんですか?」

アスター王子の話は意外過ぎた。頭を上げて彼を見た瞬間、ドキンと胸が高鳴る。

アスター王子が、とても優しく温かい笑顔でわたしを見つめていたから。

「ああ、わが婚約者のお陰で…今期騎士に叙任される従騎士の数はかつてないほど多くなった」

そして、彼の手が伸びて背中に回ったかと思うと、ぐいっと抱き寄せられ……ふわっと、鼻をかすめたのは干し草のようなあたたかく懐かしい薫りと……唇に、柔らかさを感じた。

「わが勝利の女神のご加護を」

テントを後にしたアスター王子の悪戯めいた笑みで、どうやら両親の前でキスをされた……と知り、頭が爆発するかと思うくらい熱く沸騰した。