「…負けたよ。やっぱりミリィのスピードには敵わなかったな」

面頬(めんぼお)を上げたフランクスが、晴れやかな笑顔でそう言ってくれた。本当は悔しさもあるだろうに……清々しいほどきちんと負けを認める。やっぱりわが親友は、騎士に相応しい清廉な心の持ち主だ。

「ううん、フランクスのパワーもね。君のランスが折れなかったら、ぼくのランスは折れてた。ギリギリの勝利で結構ヒヤッとしたよ」

わたしがそう告げると、フランクスはニヤッと笑い手を差し出す。手甲(ガントレット)を着けていない右手で、固い握手をかわした。すると、周囲からわあっ!と歓声が上がった。

どうやら、この握手は盛り上がる演出に花を添えたらしい。

「おめでとう、ミリィ。次は勝たせてもらうからな」
「ああ、だけどぼくも簡単に負けるつもりはないから」

ポンとお互いの背中をたたきあい、会場から引き上げる。

フランクスはマリア王女や義両親が迎えて、そのまま休憩のテントへ。

わたしの方は、アスター王子とお父様お母様が出迎えてくださった。


「ミリィ、優勝おめでとう…とても立派だったわ」
「うむ、やったな。これで、おまえの騎士叙任に文句をつける人間はいないだろう」

お母様とお父様は、わたし以上に感慨深かっただろう。
跡取りのひとり娘を騎士にさせる……お家断絶の危機にもなりかねないのに、お二人はわたしのわがままを認めてくださった。まだまだ女性騎士は少ない。エストアール家のことを悪しざまに話す人間はいくらでもいる。だからなおのこと、こうして勝って示したかった。女性でも男性に負けずにやれる…ということを。