(……かわされた)

次の試合、予想外に手強い対戦相手だった。

それもそのはず。わたしとともにずっと学び鍛錬してきた、従騎士仲間のトムソンだったのだから。
フランクスほど長い時間一緒に訓練はしていないものの、わたしの動きの癖や思考パターンは知られている。やりにくい事この上ない。

トムソンは婚約者のローズ嬢とまぁ上手く行っているようだ。設営されたテントから出てきた時、彼女が心配そうに話しかけて……トムソンは彼女の手を取って、微笑みなにか言ってた。その空気は悪いものではなく、トムソンがローズ嬢を思いやり、彼女も心底トムソンを心配している事がわかる。
恋人同士のような甘い雰囲気ではなかったけど……
おそらく、2人なりにともに時間を重ねてきて、それなりに互いを想う気持ちを育んできたんだろう。

ローズ嬢の実家のバーベイン侯爵家は、当主の犯罪により爵位身分領地をすべて剥奪され、没落した。
犯罪者の娘であるローズ嬢を婚約者として受け入れたトムソン。特に関わりも、ましてや色恋沙汰もなかったのに…彼女を実家の伯爵家に住まわせたんだ。

あれ以来、ローズ嬢はひとが変わったように花嫁修業をしつつ、謙虚に学びながら伯爵家の家業を手伝っているらしい。良い方に人が変わったことは、テントから出てきた時に見てわかった。
侯爵令嬢時代は派手なドレスを好み、これ見よがしに高価なアクセサリーで着飾っていた。でも今は、さっぱりしたワンピースドレスにエプロン。お化粧も必要最低限。髪もひとつにまとめただけ。アクセサリーなんてなにも身に着けていなかった。
それでも、もとは美人だから充分美しい。

トムソンも、彼女のために負けられないんだろう。伝わる気迫が今までと段違いだ。