「ミリィ、おまえも勝ったみたいだな」

再びテントに戻ろうとしていた時、鈍色のプレートアーマーを着用した馬上の人物に声を掛けられた。ランスや馬は見慣れたもの。

「うん、何とかね。フランクスは次の試合?」
「ああ。実力は上の相手だけどな」

声の硬さから、フランクスがやや緊張しているのが伝わってくる。無理もない。この試合場では国王陛下がご観覧されている。将来その国王陛下の義理の息子になるし、新公爵にも叙されるんだ。簡単に負けるわけにはいかないし、プレッシャーは相当なものだろう。

よし、とわたしはフランクスの背中をパシンと軽く叩く。鎧の上だからダメージはないし、鈍い音が響いただけ。それでも、フランクスがハッと息を飲んだ音が伝わってきた。

「フランクス、こんな状況じゃあ緊張するなって方が無理だけどさ。どうせなら楽しんできた方が勝ちだよ」
「……楽しむ?」
「そう!」

フランクスの怪訝そうな声に、わたしは勢いよく頷いて見せた。兜は脱いでいるから安心。

「わたしは、ゲーム感覚で楽しんでいるよ。どう相手を攻略しようか…って。ボードゲームの盤上と同じだよ。相手の考えを呼んで、先手を取り勝つ。戦略性が必要なのは変わらない」

この馬上槍試合では対戦相手は直前までわからない。ズルやイカサマを防ぎ公平に勝負するためだ。だからこそ、自分自身の実力がものをいう。