「ともかく、今は身体を休めなさい。次の試合まであまり時間がない。それと、ランスについてだが…」

お父様は微苦笑をして、わたしに軽く試合のアドバイスをしてくださった。お母様は手にした水筒と紙の包みを差し出される。

「あなたの好きなハーブティーとサンドイッチよ。お腹が空くでしょうから、軽く食べておいた方がいいわ」
「!」

お母様が作ってくれるのは、決まってルイスリンプのサーモンサンドイッチ。サーモンと玉ねぎを挟んだものだ。

「ありがとうございます!早速いただきますね」

わたしが早速包みを開いて口にすれば、お母様がクスリと微笑む。

「ほんとうに……そのサンドイッチが好きね。子どもの頃から変わらないわ」
「目の輝きが違うからな」

お父様からまでそうおっしゃって、好物を知られていたことが嬉しいやら恥ずかしいやら。

でも、とわたしはお二人を見上げてこう告げる。

「……1年前、わたしが落馬の怪我をした時に、アスター王子とともに、湖へピクニックへ行った事があります」

こんな語りはいきなりなんだろう?と唐突に思えることだろう。けれども、わたしにとってとても大切な出来事(イベント)だった。

「その時、彼が用意してくださったのがルイスリンプのサーモンサンドイッチと、お祖母さまの地元特産のチーズでした。どちらもわたしの大好物ですが、王都ではなかなか手に入るものじゃない……その時、わたしは思ったんです。“この方は、わたしのために調べて一生懸命用意してくださったんだな”…って」