審判がこちら側の旗を上げる。

わたしの初勝利だった。



「ふう……」

馬上槍試合に出場する選手の控え室は、それぞれ各自用意したテントが使われる。兜を脱ぎながらエストアール家の紋章が入った天幕を潜ると、お父様とお母様、アスター王子の顔ぶれが待っていた。

「ミリィ、お帰りなさい。馬上槍試合の初勝利おめでとう」

お母様が珍しく頬を紅潮させて、わたしの手甲(ガントレット)に包まれた左手を取る。

「うむ、見事な勝利だったな」

騎士服姿のお父様は、他のトーナメント場の審判をされている。多忙な合間を縫って試合を見て、わざわざお祝いを言いに来てくださったんだ。それだけでも、胸が暖かくなる。

それに、お二人にはどうしても初勝利を捧げたかった。

エストアール家の娘として恥ずかしくないようにしたかったし、何よりこれまでわがままを通してきた結果をお見せしたかったんだ。1年前、わたしが騎士を目指す時に猛反対されたのに、我を通してしまったのだから。

この1年の努力を、騎士としてどれだけ実力をつけたか見て頂きたかった。

「ミリィ、おめでとう」

アスター王子がボソッとお祝いを言ってくださったのも嬉しい。

「はい。ありがとうございます。この1年、アスター王子に鬼のようにしごかれたおかげですね」
「………」

いい笑顔で返すと、アスター王子は憮然としてしまいましたよ…。
仕方ないなあ、とすぐフォローしておいた。

「冗談ですよ。あなたはむしろ、体を休めることも提案してくださいましたからね」