「アクア、行くよ!」
「ブフッ!」

アクアは徐々にスピードを上げていくけれど、あまり速くなり過ぎるとタイミングが合わなくなる。微妙に速度を鬯しながら、右手のランスを左斜め下に構える。

(……来た!)

塀の向こう側から、プレートメイルを着た対戦相手の姿が見えた。身長は当然わたしよりも高く、体格もいい。

ただ、馬の扱いにクセがありそうだ。頭の中で冷静に分析をする。

勝負は、一瞬で決まる。

体重がある相手ならば、落馬させるよりも相手のランスを砕いた方が早そうだけど。

素早く作戦を決めたわたしは、鎧の右脇下にある金具、ランスレストの具合を再度確認する。
ランスレストはランスが衝突した時に、後ろにずれて攻撃力が無くなることを防ぐ大切な部品。

(よし、万全だ)

左手の盾もOK。

あと、数秒。

心臓が、かつてないほど高鳴る。
兜で視界が制限されているのに、視界はかつてないほどクリアだ。

すれ違う数秒前、相手がランスを水平に構えた。

(……今だ!)

左斜め下に構えたランスを上げ、下から相手のランスを跳ね上げる。相手のランスの下に沿ってランスを滑らせ、そのまましっかり握ったランスで相手の顎の下を狙う。

馬の体重も乗ったランスチャージ(突撃)。

けど、やはり相手も簡単には落馬しなかった。