通常、こういった場のドレスにはロンググローブ(手袋)を身に着けるものだけど、わたしはあえてそれをしなかった。
自分自身の分厚い皮の手や剣だこは、恥ずかしいものじゃない。むしろ、騎士として誇らしいものだから。

「剣の道ずいぶんで努力されているようですね」

やはり、剣士や騎士には見抜かれる。
わたしは嬉しくなって「はい」と返事した。

「でも、わたしはまだまだです。自分自身の実力は憧れの人に遠く及ばない…だから、わくわくするんです。どれだけ努力すればいいかと…より高みを目指せる幸せが」

普通の淑女ならば、決して口にしないだろう話題。けれども、やはりメイフュ王太子には通じた。

「わかります。私も剣の修養をしていますが、まだまだ理想には程遠い。特に、師匠の足元にも及ばない」
「師匠……ですか?どういった御方でしょう?」

隣国王太子殿下の剣の師匠…興味深くて、失礼を承知ながらもついつい訊ねてしまった。でも、メイフュ殿下は予想をしていらしたのか、クスリと笑って視線で示される。

その先にいたのは、アスター王子と……あれは。

「え、あの御方……ですか!?」

アスター王子と踊っていたパートナーは、あの襲撃事件を起こした犯人たちのいたフィアーナ王国のファニイ女王陛下。見事なシルバーブロンドを緩く結い上げ、透き通るような新緑の瞳。背もアスター王子に負けないほど高く、優雅かつ俊敏な身の捌き。なるほど…確かに、武術をしている人特有の動きだった。