「さて、式はこれまで。後は堅苦しいことは無しにしましょう!」

国王陛下がそうおっしゃると、今まではイベントごとに相応しい重厚な演奏をしていた近衛兵所属の軍楽隊が、アップテンポで軽快な音楽を奏で始めた。

“楽しい春の1日”というタイトルの、伝統的で陽気なダンス。長い冬を経たあとの春の喜びを表現した、世界的な名曲だ。
ここ数十年結婚式やお祭りなどで人気があり、パーティでも度々踊られる。格式ばったイベントでも、たまに採用されていた。

音楽に合わせてステップを踏みながら、国王陛下がキルシェ女王陛下の前にやって来て手を差し伸べる。キルシェ陛下はクスリと笑い、すぐその手を取って立ち上がり、2人は踊り始めた。

「ミリィ、どうぞお手を」
「はい」

アスター王子とわたしも国王陛下に続いて会場中央で踊り始めた。大好きなこの曲ならば、わたしもそらで踊れる。マリア王女もフランクスをリードしながら踊り始めた。

「さぁ、皆様もご一緒に!このよき日をともに楽しみましょう!」

国王陛下の声掛けもあり、それぞれのゲストは手近な人たちでペアを組み、ダンスを始めた。
中には男女の人数差もあり、男性同士で踊る人たちもいたけれど…どの人も明るい笑顔。ちょっとおふざけして、変わったステップを踏み出す人もいらしたけれど。

(楽しい…!)

5月の爽やかに吹き抜ける春風が、汗をかいて火照った肌に心地よい。

まさか、こんなふうにダンスパーティーになるとは思わなかったけど。ユーモアある国王陛下の粋なサプライズ。

次々とパートナーを変えて踊るなんて、なかなか経験できない。しかも、その相手が各国首脳…国王陛下や首相、皇帝陛下に大統領なんて。一生に一度だろう。