さすがアスター王子。
わたしの扱い方を十二分に心得てる。

「……絶対、見てくださいよ」

そうつぶやいたわたしは、しっかりと羽根ペンを握り直し婚約誓約書に向かう。

(そうだ、これは試合より戦いより遥かにマシだ。ただサインするだけなんだから)

それでも焦らないように、ゆっくりと丁寧にサインをする。
ミリュエール・フォン・エストアール。

次にサインをする機会は、結婚誓約書。
王太子妃として、姓が変わるだろう。

それでも、わたしはエストアール家の娘。

伝統ある武家の誇りを胸に、変わらずにいるだろう。


アスター王子とわたしのサインに、大司教と国王陛下ご両人が立会人としてサインされ、わたし達の正式な婚約が宣誓された。


「ここに、すべての至高神ランスロットの名のもとに、お二人の婚約を認めます。すべての時をともにあらんことを」

大司教の宣言と同時に、賓客席よりパチパチと拍手が湧き起こった。そのもとを見れば、ノプットのキルシェ女王陛下だ。

銀髪をしっかり結い上げて淡い水色の瞳は輝いてる。身に着けた話ワンピースドレスは、白を基調としたシンプルかつ美しいデザイン。変わらず、年齢を感じさせない若さと美しさだ。

おめでとう、と心からお祝いしてくださっていることがよく解る笑顔だった。