アスター王子がその名前を名乗ると、賓客席より自然とざわめきが起きる。悪い反応でなく、大半は感嘆の声だ。
やっぱりアスター王子の騎士としての名声はゼイレームのみならず、国外……かなりの国々に伝わっているらしい。そのことは単純に嬉しいし、部下としても婚約者としても誇りに思う。

そして、その名前が知られているということは、彼自身にもよい効果をもたらす。

「我が息子、アスター。そしてミリュエール嬢。この二人が皆様の前で本日正式に婚約すると同時に、アスターが我がゼイレームの後継者たる王太子となることをここへ宣言いたします」

遂に、国王陛下自らがそう公表された。

ここ数年将来の国王となる王太子の地位を巡り、国内外で様々な思惑が乱れ飛び、良からぬ輩も暗躍してきた。
少数派ながら庶民出身の母を持つ第1王子アルベルト殿下を支持する勢力。プスムラム共和国の王族の血を引く王妃から生まれた第2王子レスター殿下を支持したのは、古来よりの大貴族。そして、ノプット出身のソニア妃の生まれた第3王子アスター殿下。彼には、主に中流貴族の支持がついていた。

けれども、アルベルト殿下が早々に臣籍降下を公表され、王太子レースから撤退。レスター王子かアスター王子かと長年懸念されてきたけれども……優勢と言われていたレスター王子は、自ら愚かな振る舞いばかりして脱落。反対にアスター王子は黙々と実績を挙げて評価を上げてきた。

騎士であり武人である実力主義の国王陛下が、ずいぶん前からアスター王子を王太子に、という心積もりだったのは自然と言えた。